チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年2月6日

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山口亮子 (やまぐち・りょうこ)

ジャーナリスト

2010年京都大学文学部卒業、2013年北京大学歴史学系大学院修了、時事通信社を経て16年よりフリージャーナリストとして活動。

4.AI

 中国政府は2030年までにAI(人工知能)産業を世界トップ水準にすると掲げている。バイドゥ、アリババ、テンセントなどの大企業がAIを扱う技術者を大量に養成しており、スタートアップにもこうした人材が流れ込み、各分野でAIを使った新たな展開が生まれようとしている。

真機智能の劉智勇と清華大学内ですでに無人配送を行っているロボット

 中国ではネット上で買い物をしても、旅行の予約をしても、高度化したチャットボット(AIを使った自動応答システム)が大概の問題は解決してしまう。オペレーターまで行きつくことはめったにない。BATを中心にAIの扱える技術者が極めて多く、さまざまな分野でAI活用が進んでいる。

元アリババのAI研究者がロボット会社を起業

 こうした人材はスタートアップにも流入している。中国初の配送ロボット会社「真機智能」の創業者でCEOの劉智勇がまさにそうだ。専門は機械学習で、清華大を卒業後、チューリッヒ工科大学で学んだ。帰国後はアリババで人工知能の開発に携わっていたが、16年に独立し、同社を立ち上げた。

 オンラインの商品取引の増える一方、ラストワンマイルの負担が大きくなるのはどの国も変わらない。なかでも中国で、オンラインショッピングの日として定着した「双十一(11月11日)」に大量の商品が購入され、配送センターが混乱を極める様子をニュースで見た読者も多いのではないか。昨年は期間中、15億以上の商品が売買されたといい、オンラインショッピングの流通規模は拡大の一途をたどっている。

 「インターネットでは完全に解決できないラストワンマイルという大きな課題を、ロボットで解決したいと、アリババを辞めて中国で初の配送ロボット会社を立ち上げた」

 ロボットは1メートル足らずの車高で、黄色いボディー、レーダーを積んだ丸くて黒い頭頂部、6つのタイヤが特徴だ。その核心となるのがAIを使った独自のオペレーションシステムだ。高速でリアルタイムの閉ループ制御(位置決めの制御方式の一種。 制御装置からの出力信号によって制御された機械やモーターの移動量のデータを制御装置にフィードバックし、入力値と出力値を常に比較して両者を一致させるように全体の操作量を調整する)でロボットが正確に自らの位置を把握し、技術者の関与なしに配送を完結させる。 ※走行中のロボットの映像は下記リンクを参照 https://v.qq.com/x/page/i0536ax5t7a.html

性能が高く、かつ価格競争力があるのが真機智能のロボットの特徴だという(同社提供)

 同社を支えるのが精華大学や北京航空航天大学、北京理工大学といった、ハイレベルの大学の優秀な学生だ。修士以上の学生をインターンシップとして採用している。20人ほどの社員に加え、若干名のインターンシップがおり、いずれも清華大学や世界の一流大学の卒業生だ。よい技術者を集めるため、スタートアップとはいえ、給与はあまり低くならないようにしているという。

AIブームはドットコム・バブルに近い

 「物流費はGDPの18%を占めており、うち50%は人件費。中でも配送の最後の1キロは、それまでの1000キロの配送費の実に5倍がかかるとされており、非常に非効率」

 劉は、人が担っているラストワンマイルの部分にロボットが入り込み、人との置き換えが起こるのは時間の問題と考えている。2020年には120万台を市場に投入するという野心的な目標を掲げる。120万台の投入というのは、つまり、ラストワンマイルを担う配達員という一つの職業の消失を意味する。

 「ただ、消失というよりは、ひとつの職業から別の職業へのシフトと捉えている」

 劉は「我々は『クラウド頭脳』の会社になりたい」と語る。つまり、クラウド上の人工知能によって無数のロボットの運行を管理し、ラストワンマイルを徹底解決するというのだ。アリババや京東集団(JDドットコム)といった自前でロボット開発を進めるEC大手とは一線を画し、他のロングテール型ビジネス(多数のアイテムを長期にわたって販売するアマゾンのようなビジネス)の会社と組んで、より開かれたサービスを目指している。

 AIへの期待がこれまでになく高まっている現状について、劉はインターネット関連産業が異常に注目を集めた1990年代末から2000年代初めのドットコム・バブルに近いとみている。01年にはバブルが崩壊し、インターネットへの過剰な期待は裏切られたかに思えた。しかし、結果的にその時期に今のインターネット産業の巨人となっている会社が誕生していたし、インターネットが生活を変えるということが実際に起こっている。

 「AIの今というのは、インターネットの1999年のように将来のバブルの出現に面しているといえるだろう。ただ、バブルの後には必ず、より大きく長期的な発展がある」

 AIが新たな産業のトレンドとなったこの時期に、AI関連事業を自らハンドリングできる喜びを、劉は噛みしめているようだ。

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