中国はいま某国で

2011年1月24日

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谷口智彦 (たにぐち・ともひこ)

慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授

明治大学国際日本学部客員教授。2008年7月まで3年間外務省で外務副報道官。元日経ビジネス記者、編集委員、ロンドン外国プレス協会会長。著書に『同盟が消える日』(編訳、ウェッジ)など。(2013年1月末日現在)

 シルクロード西端の国トルコが、東端の中国とにわかに接近、古来の通商路を鉄道網建設で復活させると称しつつ全面的・戦略的関係に入った。

 折からトルコには、中国人労働者が大挙流入中だ。同国が2009年発給した労働ビザのうち、20%近くは中国人に渡った。無論、最大集団である。

中国空軍戦闘機
トルコ領空で演習

 戦略的関係は、文字通り軍同士の結合を含む。9月、中国空軍戦闘機はトルコ領内へ入り、トルコ空軍と共同演習を挙行した。トルコはれっきとした北大西洋条約機構(NATO)のメンバー国だ。NATO加盟国領空を、社会主義独裁国家の空軍機が演習のため飛んだなど、前代未聞である。

 中国軍機はトルコ入りする前、イランに立ち寄り給油した。これまた、米国と西側を挑発する意図たるや明白。

 中国は、大型軍事輸出の商談もトルコに呑ませたい意向という。トルコ側報道は、北京が売りたいのは弾道ミサイル防衛システムだと伝えた。この際勢いに任せ、トルコを西側から引き剥がしたいのか。ちなみに中国製のシステムが弾道ミサイルを迎撃できるのか否か、誰にもわからない。

 以上はすべて、10月初旬トルコの首都アンカラを訪れた中国の温家宝首相が、エルドアン・トルコ首相と何本もの覚書を交わし、「戦略的関係」の樹立を宣したのと相前後した動きだ。

 覚書の内容は、通信・交通という国家の死命に関わるインフラ建設での協力から、シルクロード鉄道事業の共同研究、さらに昨今中国が西側の「弱い環」を取り込む際定番となった感がある決済同盟の約束も含む。

 中国国家開発銀行とトルコのAKBANKが交わした合意によれば、今後両国は、ドルを介さず各々の通貨で貿易代金を決済できるようになる。双方にプールしておいた資金を、差額決済するやり方と思われる。

鉄道敷設に関与
10路線に3兆円支援

 中でも象徴的なのが、トルコの鉄道建設に中国が深く関わる道筋をつけたことだ。邦貨にして3兆円近い資金を、中国はトルコに貸し付けるという。

 それを元手に敷かれる路線は10本に及ぶ。アンカラ─イスタンブール、エディルネ─イスタンブール、アンカラ─シワス、イェルコイ─カイセリ、シワス─マラトヤ─エラズー─ディヤルバクル、シワス─エルジンシャン─エルズルム─カルス、エルズルム─トラブゾン、アンカラ─イズミル、アンカラ─アンタリヤ、コンヤ─アンタリヤだ。地図で示そうにも、路線が多過ぎてなまじの図面には収まらない。

 09年7月、中国・新疆ウイグル自治区で起きた暴動が制圧された時、エルドアン首相は北京の対応を「ほとんど集団虐殺」だと呼んで非難した。トルコ人にとってウイグル族は同胞と呼ぶべき存在。トルコ在住ウイグル人も多い。憤激に偽りはないかに見えたはずが、首相の見事な回れ右である。

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