世界の記述

2018年2月22日

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 ベネズエラからの報道によると、同国政府関係者は2月20日、仮想通貨を売り出したと発表した。その名も原油を意味する「ペトロ」。実現の見込みのない「南米型社会主義」を標榜し、国を破綻寸前に追い込むマドゥロ大統領は12月に事前発表し、早くも1月には、テレビ放送で金の延べ棒を手に満面の笑顔で「2月に売り出す」と発表した。

(iStock.com/mtrommer/ Thissatan)

 日本で取引所「コインチェック」による580億円分もの不正流出があったように、仮想通貨の信用度、安全度はまだ不確かだ。そんな中、いかにも信頼できそうにない国のコインが果たして売れるのか。

 仮想通貨の発行を模索している政府にはスウェーデン、シンガポール、エストニアなどがあるが、いずれも検討段階だ。本来ならそれなりの法制度を確立し、利用者のパスワードの管理体制、ハッカー対策など、十分にその信頼性を担保した上で発行すべきところだが、ベネズエラは昨年12月に国会も通さず大統領府の独断で発表。セキュリティーに関する詳細な説明もないまま早くも2月に発行すると、妙に急いでいる。

 今回発行されるペトロは世界一の埋蔵量を誇るベネズエラ産原油と未だ探鉱段階の金、ダイヤモンドなどの天然資源を担保にしたもの。1ペトロが原油1バレルに相当する。詳細は公表されていないが、現地の政府関係者の情報を基にしたAP通信などの報道によると、2月時点でまず3840万ペトロを機関投資家向けに販売し、これが第一弾になるため、セールで最大60%の割引が受けられる。そして3月15日に一般向けに4400万ペトロが発行される。

 1月の原油平均価格の1バレル約59ドルで概算すれば、約48億6000万ドル、日本円にして5300億円相当になる。

 ベネズエラが慣れない仮想通貨を使ってでも資金調達に躍起になるのは当然とも言える。本来なら原油を担保にした国債を発行するところだが、昨年8月にトランプ政権が、米国の金融機関にベネズエラ国債とベネズエラ国営石油会社の社債の新規取引を禁じる経済制裁を打ち出したため、国債の発行は難しい。そこで、仮想通貨が抜け穴になるとの判断だが、米財務省は1月、これについても、取引すれば制裁違反になる可能性があると米国内の投資家に警告した。

 輸入の9割以上を原油と石油製品に依存するベネズエラは2014年の原油安で国庫が払底し、国内の食料、物資が枯渇して超インフレを招いた。そして、大統領退陣を求める野党や市民への弾圧を続けている。米国や欧州連合による制裁は独裁体制を固めるマドゥロ政権の資金源を断つのが狙いで、過去6年ずっと減少傾向にあるベネズエラの原油生産量は昨年も前年比で約13%減らした。国際通貨基金(IMF)の予測ではベネズエラのインフレ率は今年も2300%を超え、市民生活はさらに圧迫されそうだ。

 こんな状態で、誰がペトロを買うのか。ベネズエラへの投資を続ける中国は仮想通貨の取引を禁じており、当てにできない。では英連邦系の資源メジャーはどうだろう。ベネズエラ政府によれば、マドゥロ政権が開発を見込んでいる国土の12%に及ぶ未発掘のアマゾン地域だけで、金で2000億ドル相当、電子機器に使われる希少資源コルタンで1000億ドル、ダイヤモンドも30億カラット分の推定埋蔵量があるという。

 かなりの大風呂敷だろうが、ベネズエラが21世紀のボナンザ(富鉱体)であることは、資源業界では周知の事実。そこにどの企業が先に手をつけるかが最大の関心事になっている。内戦下のアフリカでゲリラと契約を結ぶような「高リスク高リターン」を厭(いと)わない資源メジャーが食指を伸ばさないとは限らない。いずれ明らかになるペトロの購入者リストは注目に値する。

  
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