WEDGE REPORT

2011年1月21日

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 「(新しいことを)やるのは、すべてリスクがある。でもやらないのは、もっとリスキーだよ」

“自分”の言葉で語る小林喜光社長  写真:井上智幸

 三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光は、「当たり前だろ」と言わんばかりに語る。質問には短い言葉で即答、身振り手振りに豪快な笑顔、そしてバリトン。バイタリティを身体に詰め込めばこうなるかと感じさせる人物で、絶えずエネルギーを放つ。

 子会社の社長をしていた「傍流」の小林が本体のトップに就いた2007年4月から、三菱ケミカルは劇変した。連結売上高3兆円超を誇る日本トップの総合化学メーカーは、中核会社の三菱化学、なかんずく石油化学事業を主軸としてきた。石化部門は売上高1兆2464億円(小林が社長就任前の07年3月期)で、歴史的にも規模的にも同社の本流。しかし小林は3年あまりで、汎用樹脂など基礎化学品を中心に同3200億円(11年3月期予想ベース)の事業からの撤退を決め、新事業へのリソース投入を進めてきた。

 連結売上高は07年3月期の2兆6228億円から3兆1900億円(11年3月期予想)に伸び、既存の石化関連の比率は48%から35%に減少。15年までの中期経営計画では5兆円の売上高を目指し、うち新事業では有機太陽電池/部材で500億円、有機光半導体で300億円、高機能新素材で200億円などを生み出す目標を掲げる。

危機を追い風に

 基礎化学品事業は、原油から精製されたナフサを分解して化学製品の主原料となるエチレン、プロピレンなどを生産する。しかし、エチレンなどから生産する汎用樹脂は、内需が縮小する一方で、輸出に活路を見いだそうにも中国市場などでは中東産の安価な製品に押されつつある。日本の石化メーカーが等しく直面する現実だ。

 ところが、「10年間で2、3度噴けば(市況が好転すれば)ペイする」(業界関係者)という変動性や、ナフサからエチレン、プロピレン、ブタジエンと、川上から川下へ連鎖しており、「耳を引っ張ると盲腸が痛くなる」(小林)というようにどこか1つを止めると他が回らなくなる構造があるため、1つの事業を摘出するのが難しい。それゆえに石化メーカーでは、思い切った構造改革が行われてこなかった。

 「10年スパンで意味のないものは、ここ1年はよくても、体力がある時に摘出すべきです。リーマンショックという恵まれた環境になったことと、頭の中で前に進む事業を描いていたことで、石化の改革を実行できた」

 09年3月期、基礎化学品部門は678億円の営業赤字に転落。改革着手を後押しした。同時に、09年11月には高機能樹脂に強みを持つ三菱レイヨンをM&Aで傘下に収めることで基本合意するなど、新事業への布石を打ってきた。M&Aなどで加算される売上高は6400億円、490億円の営業利益を生む(11年3月期予想)。

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