オトナの教養 週末の一冊

2018年3月23日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

 信頼できる人や心地良いと感じるものに「触る」と安心感などを抱くことがある。あらためて考えるとすごく不思議な現象だ。この不思議な感覚はどのように生まれ、また現在の技術では再現可能なのだろうか。

 産業界でも注目を集める「触覚」について『触楽入門』(朝日出版社)を上梓した慶應義塾大学環境情報学部の仲谷正史准教授と、同大学環境情報学部の筧康明准教授にその不思議さやテクタイルという活動などについて話を聞いた。

(iStock/NadyaPhoto)

――恋人とハグをすると安心したり、腹痛のときにお腹に手を当てると痛みが和らぐなど、「触る」ことによりさまざまな心理的な変化があります。根本的な質問なのですが、そもそも触ることで体のどの部分がどう反応しているのでしょうか?

仲谷:一般的に「触覚」というと、身体の表面で起こる皮膚感覚のことを主に指していますが、本書では触ることで生じる主観的な体験を指して「触感」という言葉で表現しています。この触感は身近に体験される一方で、その主観的であるがゆえに、客観性を重んじる科学では解明がなかなか難しい側面もあります。また、触感は皮膚からの感覚だけではなく、他の五感や言語、記憶といった高次の認知機能と組み合わせた相対的な印象、イメージとして感じられます。

 視覚や聴覚と比較して、触覚の感覚器は全身にあります。その数は、皮膚の細胞1個1個が痛みなどを知覚していると数えると、全身に数百億の受容器があることになります。視覚の受容器が網膜上に約1億個と推定されていますが、皮膚細胞の数で単純に考えれば触覚を受容する点の数の膨大さがわかると思います。触覚の受容器が反応すると、まとまった状態となり、体中の皮膚に張り巡らされた感覚神経に伝達され、脊髄や中枢神経系を通り脳へ到達する。触覚受容器は部位によって数は違えども体の隅々に存在しているので、中枢である脳は末梢で何があるかを感じることができます。触覚の神経科学研究では、中枢神経系の1つであり、触覚の情報中継地点でもある脊髄において、どのような触覚情報処理が行われているのか、一大研究分野になっています。

――触感について、不思議だなと思うことはどんなことですか?

筧:触覚は不思議なことばかりです(笑)。

仲谷:確かにそうですね。最初に不思議だなと感じたのは、触覚(注:この頃は触感とは言っていませんでした)の研究をはじめた2001年頃、他の五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚)と同じく日常的に使っている感覚にもかかわらず日本語で触覚についてまとまって書かれている単独の教科書が岩村吉晃先生がお書きになった『タッチ』(医学書院)という1冊のみだったことです。しかもその教科書には「まだわかっていない」と書かれていることも多く掲載されていました。

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