中島厚志が読み解く「激動の経済」

2011年3月11日

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中島厚志 (なかじま・あつし)

経済産業研究所理事長

1952年生まれ。東京都出身。東大法学部卒業後、75年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。パリ興銀社長、日本興業銀行調査部長、みずほ総合研究所専務執行役員チーフエコノミストなどを経て現職。著書に『統計で読み解く日本経済 最強の成長戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『日本の突破口―経済停滞の原因は国民意識にあり』『世界経済連鎖する危機―「金融危機」「世界同時不況」の行方を読む』(東洋経済新報社)など。

 2月に行われたG20財務相・中央銀行総裁会議では、経済不均衡を是正して世界経済の均衡ある成長を達成するために、財政収支などの経済指標を使って政策調整をしていくことが合意された。

 そして、4月の次回G20財務相・中央銀行総裁会合までに、これらの経済指標で構成されるガイドラインを各国経済評価の参考とすることで合意するとしている。

合意形成が難しいG20

 今回のG20会議で示された不均衡を把握する参考指標は、①公的債務と財政赤字、②民間貯蓄率と民間債務、③貿易収支、投資所得および対外移転の収支で構成される対外収支、となっている。

 これらの指標を厳格に用いれば、G20各国は対外的な経常収支不均衡と対内的な財政収支・民間貯蓄投資バランスなどの不均衡を拡大させながら成長することが難しくなり、各国通貨間の相場調整も進むことが期待される。

 しかし、実際に経常収支等の経済指標を政策ガイドラインとして使い、参加各国の経済政策を方向づけるのは簡単ではない。現に、中国やドイツなど経常黒字の大きい国々は、通貨切り上げを余儀なくされることなどを警戒している。

 先進国ばかりか主要新興国も参加するG20各国に経常収支幅を制限する難しさは、なにより米国がよく承知しているはずだ。このことは、米国が2015年までに経常収支幅に一定の枠をはめる提案をした10年10月のG20ソウルサミットでの反応で証明済みでもある。

 合意形成が難しい経済指標のガイドライン化になぜ米国がこだわるのか。そこには、5年間での輸出倍増を公約したオバマ政権のしたたかな考えが窺える。しかし、経済指標のガイドライン化は米国にとって諸刃の剣でもある。

経済指標ガイドライン化の狙い

 米国経済の現状は、プラザ合意でドル安を図った85年当時と似ているところがある。それは、経常赤字が拡大し、大幅なドル安なくしては米国経済の均衡の取れた成長が見込みにくくなったことであり、主要貿易相手国通貨の切り上げ(ドル)を通じて外需を伸ばし、経済成長を実現しようとしていることだ。

 経済指標のガイドライン化が合意されれば、米国以外の主要国はあたかもプラザ合意時のドイツや日本のように成長けん引役を担うことになるし、場合によってはドル以外の通貨が切り上げられることになる。

 しかも、この米国にとって居心地がよい枠組みと言える。経常黒字国が黒字拡大をみずから抑える枠組みだし、米国の過剰消費やドル垂れ流しのツケを他国が清算してくれる枠組みでもあるからだ。米国にとって好都合なことは他にもある。世界経済と国際情勢に於ける米国の自縄自縛状態を改善する枠組みになる可能性もある点だ。

 現在、資源価格高が世界経済の回復持続の障害となりつつあるのみならず、食糧価格高は中東情勢の不安定化も招いている。そして、この資源価格高の一因には米国の大胆な金融緩和策がある。今後、中東情勢が米国の利益にならない方向に向かうとすれば、それは米国自身が種を蒔いた面もあり、米国にとって自縄自縛の事態とも言える。

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