万葉から吹く風

2011年4月15日

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堂本 剛 (どうもと・つよし)

1979年、奈良市生まれ。音楽、ファッション、アートなど、幅広い方面で活躍中。08年より奈良市観光特別大使に就任。本稿に登場する新曲「縁(えに)を結(ゆ)いて」を4月6日に発売。

 僕は奈良の中心地に生まれた。子どもの僕にとって、西大寺は身近なお寺で、平城宮跡は遊べる原っぱ。学校で少しは歴史も習ったけれど、そこが特別な場所という感覚はなかった。

 ところが十代で上京して仕事に慣れたころ、どうしようもなく苦しくなり、気づいたら大極殿跡に立っていた。横長に広がる大きな空を眺めているうちに、周囲の要求に応えようとしてぶれていた弱い自分を見つけた。

 奈良には、古代から海外の文化を受容して独自のものを生み出してきた歴史がある。自然のまま残された野山に、神さま、仏さまがおわす。ゆったりとした“奈良タイム”は、心のぶれを正してくれる。ありのままでいいんだと教えてくれる。僕の故郷はすごいところだと腑に落ちた。その日から、奈良県人としてではなく一人の表現者として、あらためて奈良や日本の文化と向き合っている。

 そうして万葉集を紐解いた。古代の人が綴った言葉と素直に相対して、根底を感じとる。

夕されば小倉〔をぐら〕の山に鳴く鹿は
今夜〔こよひ〕は鳴かずい寝にけらしも
                                       
(巻8-1511)

 この歌を詠んだという舒明〔じょめい〕天皇の気持ちになって、夜の鹿はどうしているだろうかと耳を澄ます。時には、奈良公園まで闇の中を鹿に会いに行く。はかなさ、けなげさ……万葉人と同じ感覚で、僕も日本の美しさを表現したい。いろいろなことを知りたいから、歩いて、調べて、見て、感じて、気ままに奈良を歩き回る。昔に遡〔さかのぼ〕っていく。

photo:井上博道

 そんな折、吉野の深山に抱かれた神社の宮司さんと親しくなり、母と一緒に訪れた。すると、天から降りてくるように、僕の中から詩とメロディーが湧き上がってきた。

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