チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年4月18日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 東日本大震災後の大津波が引き起こした原子力発電所の事故が、国際社会に大きな波紋を投げかけている。震災からすでに1カ月が経つというのに、経済産業省原子力安全・保安院が事故の評価をレベル7に引き上げたニュースを各国がトップニュースで扱った。

 神経質な反応を見せているのが韓国やロシア、そして中国だ。4月13日には、北京で開かれた中韓首相会談で、主要議題が原子力発電の安全問題になったというように注目度の高さを感じさせた。ただ、これらの国々の関心が国民生活の安全だけに注がれているかといえば、決してそうではない。

 例えばロシアである。原発こそ、数少ない輸出産業に位置づけられるロシアにとって、日本の福島第一原発の事故は、輸出の大きな妨げになる。それだけに日本の経産省が事故のレベルを「7」に引き上げるやいなや、専門家が疑義をはさむといった反応を見せた。中国も、「中国が(福島原発の事故から)受ける放射能汚染の影響は、チェルノブイリのわずか100分の1」と控えめに伝えただけだ。

 すでに各国は、それぞれの思惑で動き始めているのだ。

 なかでも、やっと本格的に原子力エネルギーへの依存を深めてゆこうとした出鼻を挫かれた中国は、これまで進めてきた原発開発計画を後退させないために、過剰なほど放射線の検査を繰り返している。その一方では安全性のアナウンスに力を入れ、流言の打ち消しに躍起になっている。日本に対しても表面的には、「(放射性物質を含む汚染水を海に放出した問題に絡め)情報の早期通知」(電話会談での温家宝総理の発言)を求めたに過ぎないが、内心では福島原発の処理への手間取りに苛立ちを募らせていることは間違いない。

 というのも、福島の事故が起きる以前の中国では、住民の反対が原発計画の推進の足を引っ張ることは考えられなかったからだ。

 そのことは、2013年に完成が予定されている世界初の第3世代原子炉「AP1000型炉」(加圧水型炉)、浙江省の三門原発のなかに、原子炉からわずか数百メートルという距離に宿舎や五ツ星ホテルが建てられている、その感覚からも明らかだ。

安全性強調に余念がない地方政府

 共産党の支配が強い中国では、国の開発プロジェクトは思いのままと思われがちだが、最近は必ずしもそうではない。一昨年には、広東省が計画していたゴミ処理施設が、住民の反対運動によって移転を余儀なくされたという事例もある。

 ゴミ処理施設でさえこうなのだから、さらに直接的な健康への影響が心配される原発では、今後、地元住民の反発は必至だ。

 しかも福島の原発事故が伝えられて以降の中国の人々の反応は、明らかに過剰と呼ぶべきレベルに達している。

 4月12日には、日本からの食品輸入禁止対象地域を広げ、12都県としたのだが、そこには放射線の影響などほとんど考えられない東京、山梨、長野といった地域まで含まれているほどだ。

 また、安全性の強調にも余念がない。浙江省と並んで原発が集中している広東省では、地元メディアに作成させた「核安全知識手帳」(南方日報作成)を、わざわざ地元住民に配布し、自治体のトップが説明会を行っているのだ。

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