2024年4月28日(日)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年6月22日

 青山学院大学シンギュラリティ研究所の設立を記念した講演会の内容を、6回にわたり掲載していく。第4回は、「AIの首都シアトルとスタートアップエコシステム」と題して、Innovation Finders Capitalを運営する江藤哲郎氏(『江藤哲郎のInnovation Finding Journey』)が6月10日に講演した内容を紹介する。 

日本企業とAIの架け橋になるシアトルのミートアップ 

鹿児島県出身。1984年慶應大商学部卒業。アスキー、マイクロソフト、電通を経て、2015年、ワシント州カークランドにInnovation Finders Capitalを設立。AI、IoT等同州のスタートアップを日本企業と繋ぐAI Meetupを四半期に一度シアトルで、年に一度東京で主催している(写真・Naonori Kohira)

 今日は皆さんにAI最先端の地で何かが起きているかをお伝えします。MicrosoftもAmazonもシリコンバレーにあると思っている方がまだ多いですね。実はシアトルなんです。STARBUCKSもBoeingもCOSTCOもシアトルです。そういった基本的なことはさらりとやって、今、シリコンバレーとシアトルの間で何が起こっているかをご理解いただき、青山学院大学のシンギュラリティ研究所とシアトルのかかわりについても触れたいと思います。

 皆さんは朝起きて、スタバのコーヒーを飲んで、会社に行ってPCを開けばマイクロソフトのOSやソフトを使って仕事をします。家では奥さんがアレクサに話しかけて料理のレシピ相談をしています。週末はコストコに買い物に行って、エクスペディアで出張の計画を立てて、ボーイングで飛び立つ。シアトルでも日本でも、人々がおこなっていることです。こうしたグローバルブランドは世界中で使われています。「US FORTUNE 500 HQs」の企業でシアトルにあるのはこれらだけではありません。ボーイングは本社をシカゴに移しましたが「747」や「787」はシアトルで作られています。

シリコンバレーからシアトルへ

 少し古い数字ですが、2015年にシアトルでIT産業に従事する人は17万5000人しかいないことになっていますが、アマゾンはグローバルで従業員数55万6000人、そのうちの4万5000人がシアトル勤務です。アマゾンは年間1万人を新規採用しています。まあ、そのくらいシアトル勢が世界的にもIT産業に貢献しているわけです。シアトルの人口は400万人に満たないので、シリコンバレーよりも小さい経済圏ですが、地域内総生産は35兆円あります。日本は1億3000万人いて、500兆円ですから、比較すると非常に効率的な総生産なんですね。その理由はソフトウエア産業が発達しているからです。

 いまシアトルに、そのシリコンバレーから人と企業が押し寄せてきています。人の流れは主に若いエンジニアです。彼らにアンケートをとると次に生活の拠点を移して仕事をしたい都市が、ダントツでシアトルになります。食べ物が美味しい、治安がいいなど理由はさまざまですが、教育水準が高いことが決め手になっています。子供を作って育てることを考えると家族ごと移住という結論になります。

 シアトルの大手IT企業、Google、Facebook、Salesforceなどは1000人〜4000人規模でシアトルに研究開発センターを作っています。AppleもTuriというビッグデータをマシンラーニングに読み込ませるためのスタートアップを買収する形でシアトル進出を果たしました。中国勢もどんどんきています。BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)だけでなくファーウェイも研究開発機関を作っています。また、自動車産業も来ています、MercedesBenzはAIの研究所を作りました。Uberも自動運転の研究はシアトルでおこなっています。これだけのグローバル企業に人材を供給している大元がワシントン大学です。

7000億円の予算を持つワシントン大学

 ワシントン大学は、フルブライト奨学生136人、ノーベル賞受賞者を7人輩出、まあ、そういう点もありますが、他の大学と違うのは全米3位の予算規模です。年間7000億円強の予算を確保して、2000億円を研究開発費にあてています。確かに学費も高いですが、地元の成功者や企業から資金を集めて、AI、ビッグデータ、ML(Machine Learning)などの研究開発に邁進しているのが、この大学の一番の特色です。教授たちはピッチ(投資家向けのプレゼン)が非常にうまいです。学内で起業した研究室の教授がスタートアップの社長を兼ねているケースも多いのです。大学としては予算があるので、スタートアップしなさい、と背中を押すと同時にお金も付けてくれます。

 ワシントン大学のホームページには「人類が直面する最も困難な課題を解決するために我々はある」と書かれています。ものすごく高いところにハードルを自分で持って来ているのです。データサイエンスではニューヨーク大学、カルフォルニア大学バークレー校と提携しています。これはAIにビッグデータを読み込ませるための重要な研究になります。大学の研究所単位からスタートアップさせ、シアトルのスタートアップエコシステムを後押しているのがUWコモーションと呼ばれるアクセラレータ(期限付きの投資と経営ノウハウ指導)です。

 アマゾンはアレクサファンドを持ち、マイクロソフトはマイクロソフト・アクセラレータを自前で持っています。マイクロソフトは一昨年、大きくAIに舵を切り、マクロソフト・リサーチという研究所を半ば解体して5000人規模のAIの研究所を作りました。今は7000人体制になっていますが、それでも人材とイノベーションは足りないのです。マイクロソフト・アクセラレータの直近の卒業生10社のスタートアップは全てMLかデータサイエンスです。

AmazonとMicrosoftと中国資本

 その卒業生の代表格がDefindCrowdです。クラウドは雲ではなく、混み合うのクラウドになっているのは、クラウドソーシングで世界50カ国以上からピュアなデータを手に入れているからです。さらにMLに必要なデータを構造化するプラットフォームを提供しています。この会社はアレクサファンドが出資して、マイクロソフトで音声AIコルタナを作っていたダニエル・ブラガ博士とマイクロソフト・アクセラレータ・プリンシパルのアヤ・ズックが組んで作った会社です。SONYからの出資も受けて、4月には日本支社もできました。今まで日本企業6社とも契約を交わしています。それだけ日本にもニーズのあることをやっています。

クラウドサービスの企業別シェア(江藤氏プレゼン資料より) 写真を拡大

 シアトルではアマゾンとマイクロソフト、この2大企業の存在が大きいです。彼らはスタートアップの囲い込みに熱心です。AI研究でもこの2社がトップ争いの1位と2位を走っています。これはクラウドのマーケットシェアによるところが大きいですね。1位はAWS(Amazon Web Service)、2位はマイクロソフト、3位はグーグルかIBMかということになります。アマゾンもマイクロソフトもシンギュラリティ研究所を通じて青山学院大学といろいろなディスカッションを始めています。マイクロソフトのサティア・ナデラ社長とアマゾンCEOで創立者でもあるジェフ・ベゾスは競争もしながら、人も引き抜き合いながら、協調関係にもあるというのがシアトル勢におけるグローバルスタンダードにおける総合力なんです。両者はディープラーニングのライブラリーを共通化するためのオープンソースのGluon(グルーオン)を作りました。このような動きは世界中のAI研究者から大歓迎されています。

 そんなシアトルでの心配事が中国勢がひたひたとやって来ていることです。近年、ワシントン大学と中国の清華大学が合弁で設立したのがGIX(Global Innovation Exchange)です。40人の候補が選ばれて研究するのですが、最後の半年間は北京に住まなくてはいけないというプログラムになっています。マイクロソフトはこのプログラムに4000万ドル(44億円)を出資したという立場にあります。ここには日本の存在感が全くありません。習近平国家主席が自分の名前でGIXに植樹をしています。それだけ中国でも注目されているプロジェクトです。

AIミートアップで日本企業とビジネス提携を狙う

 では日本の大学や企業はどうすればいいのでしょうか。日本はシリコンバレーではスタートアップのエコシステムに入っていけなかったという苦い思いがあります。しかし、シアトルのスタートアップは日本に向いています。なぜなら元々B to B(Business to Business)の文化があって、B to Bであれば日本の製造業をどれだけレバレッジできるか、どれだけ効率的にグローバルに展開できるかを政府、大学、企業が分かっています。そこで私とトム佐藤が主催しているのがAIのミートアップです。日本企業とシアトルのスタートアップとのお見合いです。

 2年間で8回おこない、日本企業50社が訪れ、延べ600社のスタートアップと交流して来ました。そのうち10社以上が事業契約を結んでいます。それを考えていただくと非常に効率のいい出会いの場を作っていると自負しています。ご興味ある日本企業の方はぜひ私のFacebookかLinkedInにアクセスしてコンタクトください。それでは次にトム佐藤より、日本の大学生とビジネスマン向けのAI研修コースのご案内をします。


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