2024年4月19日(金)

日本を味わう!駅弁風土記

2011年5月26日

 値段は今年から100円上がり1,360円となったが、この内容をこの値段で出せる駅弁屋は、おそらく他にない。限定販売、買いに行きにくい、ウニ駅弁としての実力。この3点で、久慈駅のうに弁当は幻の駅弁と呼ばれ続けている。

震災からの復旧は進んでいるようだが・・・

 久慈は2011年3月11日14時46分に発生した東日本大震災の被災地である。震度5弱の地震に加えて高さ7mの津波が襲い、死者3名、負傷者7名、行方不明者2名を出した。約千棟の家屋が被災し、9割の漁船が流失し、久慈が誇る全国唯一の地下水族館「もぐらんぴあ」は全壊した。久慈市における震災による被害額は200億円を超えるという。

 しかしこの街の復旧は早かった。翌日には電気が通じ、3月16日の三陸鉄道「復興支援列車」の運行は全国に発信された。3月中には港湾の復旧、避難所の閉鎖、魚市場の再開が実現し、市の広報誌も4月1日に「災害緊急特集号」が発行されている。

 三陸鉄道の久慈駅に入居する駅うどん・そば屋「リアス亭」も、鉄道の運行に合わせて営業を再開し、4月中には「うに弁当」の販売も始まった。これもまたテレビ番組で紹介され、震災からの復興を発信した。

本当の幻にしないために

 しかし、本来は久慈駅と宮古駅を結ぶ三陸鉄道北リアス線は、陸中野田駅と小本駅との間で運休が続いている。JR八戸線も、久慈駅から階上駅までの間が復旧されていない。そのため、もともと長距離列車や特急列車が来ない久慈駅はさらに、観光客や用務客が鉄道で乗り付けられない駅となってしまった。

 鉄道不通の理由は津波による橋梁の流失であるため、元通りになるには数年の時間を要することが想像される。しかも、例えば震災1ヶ月後に北東北を訪れて観光ができたと書いたらネット上で非難されたくらい、東北地方、特に太平洋側への観光は避けられている。千円以上の駅弁を、ローカル線の復興支援列車に乗る通学客や通院客が日常的に買うことは考えにくい。

 再開を果たした久慈駅弁に吹き付ける、本当の幻になりかねない厳しい風。来年の4月にも、再来年の4月にも、三陸鉄道久慈駅の扉を開ければまるで何事も無かったように店舗のカウンターへいくつか積まれていることを、願わずにはいられない。

【注記】
(1)久慈駅とその周辺は東日本大震災の地震や津波による被害はなく、三陸鉄道久慈駅の駅舎内店舗「リアス亭」も早期に営業を再開。
(2)4月10日(日)の訪問時、久慈市街は鉄道の不通と自衛隊の展開を除いて従前の姿と通常の営業に戻っており、リアス亭も営業していたが、うに弁当の販売はなかった。
(3)4月26日(火)にはフジテレビ系列「FNNスーパーニュース」で、5月6日(金)にはテレビ朝日系列「スーパーJチャンネル」で、うに弁当の販売再開が紹介された。

※次回は、6月9日(木)更新予定です。

福岡健一さんが運営するウェブサイト「駅弁資料館」はこちら
⇒ http://eki-ben.web.infoseek.co.jp/


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