2024年4月24日(水)

韓国の「読み方」

2018年8月17日

5日に1回は国家記念日がある韓国

 そもそも「慰安婦の日」が韓国社会でどれだけ認知されているもあやしい。

 私は今年1月、東京を訪れた韓国メディアの外交担当の若い記者6人と懇談した。この時に私が「慰安婦の日」を話題にしたところ、6人とも「なんだっけ?」という感じで、きょとんとしていた。「慰安婦の日」を制定する法案が国会を通過して2カ月後のことだった。しばらく皆で顔を見合わせていると1人が思い出して「そういえば国会でやってたよ」と言い出したのだが、外交担当記者にしてこの程度である。

 ただ、これは慰安婦問題への関心の低下ばかりとは言えない。背景にあるのは、韓国における「国家記念日」の乱発だろう。

 わざわざ法律で「慰安婦の日」を制定したと言われると祝日かと勘違いする人も日本にはいるが、そういうわけではない。祝日となる記念日は「国慶日」と言われ、植民地支配から解放された「光復節」や憲法制定記念日である「制憲節」など5日ある。国家記念日は祝日ではないけれど、政府主催の式典などの行事が行われるというものだ。

 そして、この国家記念日がやたらと多い。主たる所管官庁である行政安全省によると、同省が所管する「各種記念日等に関する規定」に基づく国家記念日が48日。それ以外に個別の法律によって定められ、他省庁が所管する国家記念日も30日以上あるという。5日に1回は、なんらかの国家記念日になる計算だ。ちなみに「慰安婦の日」は後者である。

 こうした行事に対する考え方はそれぞれの国によって違うから、良い、悪いという問題ではないが、これほど多いと一般の人に関心を持てというのは難しいだろう。大統領が式典で演説すると必ずニュースになるけれど、韓国人でもニュースを見て「この日が記念日になっていたとは知らなかった」と言うことがあるほどなのだ。

 日本では、そんな事情は知られていない。それだからか在韓日本大使館は、東京の外務省から「慰安婦の日を国家記念日にするのをなぜ止められなかったか」と叱責されたという。外国の国会審議を妨害しろなどという無理難題を言われる在外公館は大変であろう。

情報をきちんと上げられない大使館

 昨年末に東京で日韓外相会談が行われた翌日のことである。日韓慰安婦合意についての検証結果を韓国外務省が公表する直前だったこともあり、日本の新聞は慰安婦問題に焦点を当てて大きく報道していた。一方で韓国の新聞の報道は、あっさりしたものだった。分量を比べるのは難しいが、感覚的に言えば「日本の3分の1か4分の1」だった。

 私が驚いたのは、この日会った日本外務省高官に日韓メディアの扱いの差を伝えた時の反応だ。いろいろな報告を受ける立場の人なのに、「そうなの? てっきり1面から何から大々的に出てると思ってたよ」という言葉が返ってきたのだ。私は「ソウルの日本大使館から報告が上がっていないのだろうか」と首をかしげざるを得なかった。

 不思議に思って調べてみると、さらに驚きの証言が出てきた。ソウルの日本大使館関係者によると、「韓国社会では関心を持たれていないなどという報告を東京に上げると、『お前らが仕事をしていないことを隠すための言い訳だろう。韓国社会で関心を持たれていないと言って、慰安婦の日を止められなかったのはたいしたことじゃないと釈明しようとするのだろう』と決め付けられる。とても本当のことを報告できる雰囲気ではない」というのだ。東京の外務省にも韓国事情に詳しい職員は多いのだが、本当にそんなことがあるのかと聞くと苦笑する人ばかりである。

 もっとも韓国側の事情も似たり寄ったりだ。東京の韓国大使館関係者にこの話をしたところ、「本国との温度差に悩むことは、よくあるよ。現場では『こんなことをしたら逆効果なのに』と分かっていても、本国からやれと言われたらやるしかない。本当はやりたくないんだけど…」という答が返ってきた。

 お互いに相手の実情を把握しなければならないのに、これでは外交当局が情報収集機能を果たしているとはとても言えない。これは、かなり深刻な問題であろう。
 

  
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