習近平国家主席を頂点とする現在の共産党政権中枢が幼少期を送った1950年代から60年代前半にかけて出版された児童向け書籍から、当時の共産党政権が育て上げようとしていた“理想の小国民像”を考えてみたい。それというのも“三つ子の魂百までも”の譬えに示されるように、政治の中枢に立った現在の彼らの振る舞いの芽は、彼らの幼い頃に植えられたのではないかと考えるからだ。
1963年当初から毛沢東最側近の2人――夫人の江青と「中国のベリア」と呼ばれた康生――は上海を拠点に京劇を軸とする文芸部門において、政権を掌握している劉少奇に対する攻撃を画策していた。
この動きは1964、65年と年を追うごとに激しさを増す。『石荘児童団』(上海人民出版社 1963年)、『草原児童団』(上海出版社 1964年)、『草原児童団』(上海人民出版社 1964年)、『雪山上的号手』(上海人民出版社 1965年)と、これまで見てきた児童書からも、その動きは傍証できるだろう。加えて1965年11月には、毛沢東思想に殉じた若き人民解放軍兵士の王杰を讃える『王杰日記』(人民出版社)が出版されている。
『王杰日記』には、「毛主席の著作を読むことは革命戦士としての第一の任務である」「革命の同志は団結しなければならない」「毛主席が話されたことは、なんでも実行するぞ」「断固として階級闘争を忘れるな」「革命の徹底が理想であり、革命の事業こそが前途であり、人民に尽くすことが幸福である」など、文革時に全国を覆ったスローガンそのもののような記述が溢れている。まさに、文革へ向けての準備は着々と進められていたはずだが、劉少奇側に危機感は感じられない。その象徴が1965年11月に出版された『新的“石器時代”』(陳仁 中国青年出版社)だろう。