海野素央の Love Trumps Hate

2018年8月28日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

 今回のテーマは「コーエン被告有罪の意味」です。米バージニア州連邦地裁は8月21日、2016年米大統領選挙でトランプ陣営の選挙対策本部長を務めたポール・マナフォート被告に対して、脱税や銀行詐欺などの8件の罪に関して有罪の評決を下しました。一方、米ニューヨーク州連邦地裁では同日、ドナルド・トランプ米大統領の個人弁護士であったマイケル・コーエン被告が、選挙資金法違法や銀行詐欺などの8件の罪について有罪を認めました。

 本稿では、コーエン被告有罪に対するトランプ大統領のダメージコントロール及び中間選挙への影響を中心に述べます。

26日ニューヨークで、トランプ大統領がブレッド・カバナフ氏を最高裁判事に指名したことに対する抗議デモが行われた( REUTERS/AFLO)

顧問弁護士と個人弁護士

 本論に入る前に、ホワイトハウスの顧問弁護士と個人弁護士の相違を明確にしておきましょう。前者は大統領に政策及び大統領の権限などについて助言を行います。

 それに対して、後者は大統領の私生活上の紛争の「火消し役」を果たします。10年以上にわたりトランプ・オーガニゼーションに勤務したコーエン氏は、大統領選挙後もトランプ大統領の個人弁護士として働いていました。それだけに、コーエン氏の証言には重みがあるわけです。

 米連邦捜査局(FBI)が今年4月、コーエン氏の自宅や事務所を家宅捜索をすると、トランプ大統領は「真の意味で米国への攻撃だ」と異常なほど敏感な反応を示しました。それはどういうことなのでしょうか。

 トランプ氏はFBIを「米国の敵国」に仕立てたのです。それほど激怒しました。今、その理由がみえてきました。

トランプ大統領のダメージコントロール

 コーエン被告はトランプ大統領と不倫関係にあった女性2人に対して、大統領選挙に影響を及ぼさないために「大統領候補の指示」で口止め料を支払ったと、法廷で宣誓証言をしました。もちろん大統領候補とはトランプ氏を指し、この行為は選挙資金法違反にあたります。

 さらに米CBSニュースは、ニューヨークのトランプタワーで選挙期間の16年6月9日、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏、娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問及びマナフォート被告がロシア人女性弁護士らと面会をした件について、「コーエン氏はトランプ大統領は事前に知らされていたと語っている」と報じました。

 トランプ大統領は、政権発足以来の最大の危機的状況を打開するために、以下の方法でダメージコントロールを行っています。

 まず、トランプ大統領はコーエン被告を「嘘つきだ」とレッテル貼りをしました。ロバート・モラー特別検察官に捜査協力をして、その引き換えに求刑の軽減を行う司法取引のために、「コーエンは話をでっちあげている」とトランプ氏は主張するのです。その狙いは、同被告の証言の信頼を低下させることです。

 次に、トランプ大統領は8月23日に放送された米FOXニュースの朝の番組「フォックス・アンド・フレンズ」の中で、自身と不倫関係にあった女性2人に対する口止め料について、コーエン被告が「すばらしい取引をした」と述べました。同被告による「単独犯行」であると言いたいのです。その背後には、同被告との距離を開けるトランプ氏の思惑があります。

 加えてトランプ大統領は、「口止め料は選挙資金から流出しておらず、自ら支払った」と説明し、選挙資金法に違反していないという立場をとりました。その際、トランプ大統領は確固たる根拠を示さずに、バラク・オバマ前大統領が選挙資金法に反したと強調しました。オバマ前大統領の例を持ち出して、自身に対する批判を弱めようとしたのです。いわゆる「中和作用」を狙ったわけです。「話題のすり替え」とも解釈できます。

 トランプ大統領は同番組で「もし自分が弾劾されれば、株価は暴落する。みんな貧困になる」とも主張し、「脅し」をかけました。トランプ弾劾の可能性は、かなり低いというのが大方の見方です。それにもかかわらず、トランプ氏自ら弾劾について言及したことは注目に値します。同氏はコーエン被告の有罪で、心理的にかなり追い込まれているのかもしれません。

 弾劾と株価に関する事例をみますと、ビル・クリントン大統領(当時)の弾劾手続きの間、経済と株価は好調でした。クリントン大統領とホワイトハウスのインターンであったモニカ・ルインスキー氏とのセックススキャンダルが発覚したとき、株価は一時下がりましたが、すぐに盛り返しています。

関連記事

新着記事

»もっと見る