サイバー空間の権力論

2018年9月14日

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 前回はAmazonの顔認識ソフトからアルゴリズムの偏見、そして情報銀行について議論した。アルゴリズムによって、現実の自分とネットワーク上の自分が乖離するという現象は、今後ますます増えていくだろう。簡単な解決法が存在しないが故に、その動向に注意する必要がある。

 今回は人工胎盤や人工子宮といった、近未来の生殖に関わる技術について論じたい。昨今の技術発展にはめまぐるしいものがあるが、スマホのように、その利便性から急速に普及するものもあれば、技術的には可能であっても受け入れがたいものもある。技術が受け入れられる過程では、なし崩し的に普及するのではなく、慎重に議論を重ねなければならないものもある。今回は小説を読み解きながら、生殖技術について考えたい。

(SvetaZi/iStock/Getty Images Plus)

3Dプリンターで作成する「人工胎盤」

 3Dプリンター技術の発展は、金属を空中にプリントしたり、薬品のプリントも可能とする。そんな中ウィーン工科大学の研究者達は、3Dナノプリンターと生体高分子で「人工胎盤」を再現したと報告した

 胎盤は母体と胎児をつなぎ、へその緒を通して酸素や栄養、さらに二酸化炭素や老廃物のやりとりを行う重要な器官だ。母体が疾病を抱えていた場合、それが物質のやりとりの中で胎児にどのような影響を与えるかは非常に重要であるが、これまで胎児と母体の物質のやりとりを調査することは、胎児の命に関わることから行うことが困難だった。

 そこで研究者達は、特別に開発された3Dナノプリンターを用いて、胎盤と同様の構造をもった生体高分子膜をマイクロ流体チップの中に再現し、これによって本物の胎盤同様の物質のやりとりが確認されたという。この研究によって血圧や血糖値、薬物が胎盤に与える影響を研究できる他、胃や腸といった生体膜を介した物質輸送の分野にも、この技術が応用できるという。人工胎盤によって、これまで以上に胎児や母体の安全が確保されることに期待したい。

 ところで、人工胎盤が広義の生殖に関わる研究だとすれば、これによって生殖技術がまた一歩前進したことになる。昨今はさらに、「人工子宮」の開発も進んでいる。

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