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2018年10月12日

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出井康博 (いでい・やすひろ)

ジャーナリスト

1965年、岡山県に生まれる。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙「ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書には、『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)などがある。

タン君の故郷近くにある日本語学校(筆者撮影、以下同)

 日本の教育機関に在籍するベトナム人留学生の数は2012年から約9倍も増え、8万人以上にまで膨らんでいる。留学を装い、出稼ぎ目的で来日する“偽装留学生”が急増した結果である。

 日本への「出稼ぎブーム」が起きた当初は、「日本に留学すれば、月20万−30万円は簡単に稼げる」といった言葉で留学斡旋業者に騙され、来日するベトナム人が目立った。実際には、日本で彼らを待ち受ける生活は「簡単」どころか、極めて過酷だ。

 コンビニやスーパーで売られる弁当の製造工場や宅配便の仕分け現場といった日本人の嫌がる夜勤の肉体労働で、留学生に許される「週28時間以内」という上限を超えて働くことになる。しかも稼いだ金は日本語学校の学費で吸い上げられ、借金はなかなか減らないーー。

借金をしてまでなぜ出稼ぎに人生を賭けるのか?

 そんな情報は、すでにベトナムでは行き渡っている。にもかかわらず、日本への留学生は増え続けているのだ。その理由について、東京都内の日本語学校で働くベトナム人職員はこう話す。

 「ハノイやホーチミンといった都会出身の留学生は減りました。その一方で、学歴や仕事のない田舎の若者がどんどん日本へと留学している」

 ベトナムの賃金は日本よりはずっと安く、ハノイのような都市部でも3〜4万円といったところだ。それでも仕事は見つかるため、多額の借金を背負ってまで日本へ「留学」しようとはしない。

 一方、仕事のない田舎では、借金のリスクを犯しても出稼ぎに人生を賭けようとする。だが、出稼ぎの目的を果たせるベトナム人は、現実にはほんの一握りに過ぎない。むしろ「留学」が、不幸を生んでいるケースも少なくないのである。

 筆者が日本で長く取材対象にしているベトナム人の1人に、タン君(20代)という若者がいる。留学先の日本語学校から失踪し、3年にわたって不法就労を続けている元留学生だ。彼の故郷をベトナムで訪ねてみることにした。

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