<短期集中連載>ウナギの謎に迫る

2011年7月19日

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WEDGE Infinity編集部(語り手:青山潤・東京大学大気海洋研究所特任准教授)

青山潤(あおやま・じゅん)
東京大学大気海洋研究所特任准教授。1967年、横浜市生まれ。東京大学農学生命科学研究科、博士課程修了。その後、東京大学海洋研究所に所属し、塚本勝巳教授の下でウナギの研究に携わる。2008年より海洋アライアンス連携分野特任准教授。現在も、研究の傍らエッセイなどを執筆している。著書に、ウナギの新種を求めてアフリカ大陸を右往左往した『アフリカにょろり旅』や、ウナギの標本収集のためにタヒチ島などを訪れた『うなドン』(ともに講談社)がある。

 無事に東アジアに辿りついたレプトセファルスは、シラスウナギへと姿を変え、沿岸や河口域に集まります。ここで前述のように養殖用種苗とすべく、人間による漁獲が待ち受けています。冬の夜、河口や砂浜にずらりと並ぶシラスウナギ漁の灯りは、風物詩としてたびたびメディアにも取り上げられています。一見、風趣に富む情景ですが、年によっては1キロ100万円以上の高値で取引されるシラスウナギ漁は熾烈です。ここで乱獲が起きている可能性も否定できません。

 海の中の目に見えないベルトコンベアをうまく乗り継ぎ、シラスウナギ漁の網を逃れたものだけが、成長場所となる河川へ入ることができます。ウナギは、ここでおよそ5~15年をかけてゆっくりと成長します。日本の河川はかつてより綺麗になりましたが、ウナギの生息域全体をみれば、まだまだ環境は悪化していると言わざるを得ません。ダム建設や生活排水・工場排水により、ニホンウナギの生活圏が脅かされているとの指摘もあります。十分に成長したニホンウナギは、産卵のために再び海を目指します。しかしながら、良好な環境で成長できる親の数が減れば、その子供が減少することは明らかです。現在、どれくらいの親ウナギが産卵場へ向かい、どれくらいの卵を生み出しているのかはまったくわかっていません。

 このように、シラスウナギの減少にはいくつかの理由が考えられます。国内でも、水産庁や研究者、鰻業界の関係者らが集まり対策を練っていますが、活動範囲が広いことや生態がよく分からないこともあり、具体的な解決策を打ち出せていないというのが実情です。そもそも、生物学的にウナギは絶滅する運命にあるのかもしれないという悲観的な意見さえあります。

EUが挑む
ウナギの保護策とは

ウナギの現地調査を行っている青山氏。

 手探りながらEUではヨーロッパウナギの保護を始めており、どのような結果に結びつくのか世界中の研究者の注目を集めています。手法の一例として挙げられているのは、河川環境を向上させるためのダムの改良、ウナギ漁の全面禁止、補食者の駆除など、大胆かつ奇抜なアイデアもあります。

 ある調査では、ヨーロッパ12カ国にある19の河川で漁獲されたシラスウナギが1980年〜2005年にかけて95%以上減少したことが明らかになっています。アジア向けシラスウナギの乱獲が一因とも言われています。ヨーロッパでも、ウナギはパイや煮こごり、燻製にして食す文化があり、関心は決して低くはないのです。

 もう一つ、「ウナギ研究で世界を引っ張るのは自分たちだ」という自負心もあるように思えます。実際、1900年代初頭にウナギが数千キロの旅をしていることを明らかにしたのはデンマークの研究者ですし、その後もヨーロッパの研究者は数々の偉業を成し遂げているからです。

 置かれている状況が違うにせよ、生態がよく分からないのはニホンウナギもヨーロッパウナギも同じです。ニホンウナギが将来絶滅しないとも限りません。「生態がよく分からないから対策をしない」のではなく、「生態が分からなくても対策を打つ」姿勢が必要かもしれません。

 今年の夏は、ウナギを食べるだけでなく、その保護にも思いを巡らせてもらえればと思います。

 

語り手プロフィール:青山潤
東京大学大気海洋研究所特任准教授。1967年、横浜市生まれ。東京大学農学生命科学研究科、博士課程修了。その後、東京大学海洋研究所に所属し、塚本勝巳教授の下でウナギの研究に携わる。2008年より海洋アライアンス連携分野特任准教授。現在も、研究の傍らエッセイなどを執筆している。著書に、ウナギの新種を求めてアフリカ大陸を右往左往した『アフリカにょろり旅』や、ウナギの標本収集のためにタヒチ島などを訪れた『うなドン』(ともに講談社)がある。

 
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