2024年4月25日(木)

中東を読み解く

2018年10月12日

おびき出し拉致狙う

 こうした中、米ワシントン・ポストは10日、サウジのムハンマド皇太子が同氏を拘束するよう指示していたと特ダネで報じた。米情報機関がサウジ当局者の会話を傍受したことから明らかになったとされるが、米側が友好国も含めた各国の交信などを常時傍受している事実もはからずも浮き彫りになった。

 同紙によると、サウジ政府を厳しく批判してきたカショギ氏はこの4カ月、皇太子に近い王室顧問からたびたび電話を受け、帰国すれば要職に就けると誘われていた。しかし、同氏はこのオファーが信用できないとして拒否していたという。もし、同氏が誘いに乗って帰国すれば、拘束する計画だった。

 イスタンブールの事件は当初のおびき出し作戦がうまくいかなかったための「代替計画」だった可能性がある。だが、米国には、米市民であるなしにかかわらず、拉致や殺害などの危険がある人間に迫っていることを情報機関が探知した場合には、当該の人物に警告しなければならないという法律があり、カショギ氏のケースではその義務を怠ったのではないか、との見方も出ている。

 今回の事件の決着がどうつくのかはまだ見えない。トルコはサウジに真相を明らかにするよう迫っているが、当初の大方の見立てに反して、激しく非難することは避けているように見える。通貨の大幅下落などで経済的な苦境に陥っている状況を考慮し、石油大国サウジとの関係を決定的に悪化させないよう配慮しているのかもしれない。

 このトルコ・サウジ関係の行方とともに、焦点になっているのは米・サウジ関係だ。仮にムハンマド皇太子が殺害計画を指令していたことがより鮮明になれば、トランプ政権としても対サウジ関係を見直さざるを得ないかもしれない。トランプ大統領自身「深刻な状況だ」と事件の感想を語り、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)、クシュナー上級顧問が相次いでムハンマド皇太子に電話し、情報の開示を求めたという。

 議会も厳しく動こうとしている。超党派の上院議員22人がカショギ氏の失踪に関与した者に制裁を加えるよう大統領に求める書簡を送った。書簡には、制裁の対象者として「サウジ政府のトップを含め」と記されており、暗にムハンマド皇太子も容赦してはならないことを示唆している。下院情報委員会すでに公聴会を開いた。


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