2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2018年10月12日

 トルコで発生したサウジアラビア人ジャーナリストの謎の失踪事件は、同国を牛耳るムハンマド皇太子(33)が命じた作戦の一環だったことが米情報機関の傍受で濃厚になった。ジャーナリストはすでに殺害されたと見られており、トルコ政府系紙はサウジ暗殺チーム15人の顔写真まで掲載、王宮深く練られた陰謀事件の全貌が浮かび上がってきた。

現場となったイスタンブールのサウジアラビア領事館(AP/AFLO)

遺体をばらばらにして搬出か

 行方不明になっているのは米在住のジャマル・カショギ氏(59)。同氏は離婚に必要な書類を提出するため10月2日午後1時過ぎ、イスタンブールのサウジ領事館に入ったまま失踪した。トルコ人のフィアンセが領事館の外で真夜中過ぎまで待っていたが、出てこなかった。

 トルコ当局がサウジ政府に情報開示と領事館の立ち入り捜査を求めているのに対し、サウジ側はカショギ氏が入館後すぐに館外に出たと弁明、捜査協力を事実上拒んでいる。トルコや米メディアなどが報じるところによると、トルコ当局者は同氏が入館してから2時間以内にサウジの暗殺チームによって殺害されたと見ている。

 事件を当初から順序立てて組み立ててみよう。この日の午前3時13分、サウジの首都リヤドから1機のチャーター・ジェットがイスタンブールのアタチェルク国際空港に到着。同機には9人のサウジ人が搭乗し、領事館に近いモーベンビック・ホテルにチェックインした。同機に続いて、午後5時過ぎにもう1機がリヤドから到着、この機には6人が乗っていた。6人は事件の後始末の応援組だったと見られている。

 トルコ政府に近い日刊紙サバハは10日、この暗殺チームの15人の身元を特定し、顔写真付きで掲載した。うち1人はサウジ治安機関の検視の専門家。またサウジ空軍の中尉も含まれていた。サバハ紙には、トルコ政府が情報をリークしたもようで、真相を隠蔽しようとするサウジへの警告だったようだ。

 領事館に入ったカショギ氏は暗殺チームの待ち伏せに遭い、殺害された。チームが最初から同氏を殺害するつもりだったのか、本国に拉致しようとして、抵抗されて偶発的な殺害に至ったのかは不明だ。いずれにせよ、同氏はバラバラされて搬出されたと見られている。チームに検視の専門家が含まれていたこと、「骨のこぎり」を携行していたと見られること、事件のあった2日は領事館の職員に臨時休暇が出されたいたことなどを考えると、殺害も選択肢に入れた準備周到な作戦であったことは間違いない。

 同氏の入館2時間後、領事館からベンツのバンなど2台が出て、近くの領事の自宅に向かった。この1台にカショギ氏の遺体が隠されていた可能性が大きいという。暗殺チームは同夜、乗ってきた2機に分乗してリヤドに向かった。


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