2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2018年10月7日

イスタンブールのサウジアラビア領事館前で抗議する人々(AP/AFLO)

 トルコ・イスタンブールのサウジアラビア領事館を訪れた反政府サウジ人ジャーナリストが謎の失踪を遂げ、本国に拉致されたのではないかなどとの疑惑が深まった。米ワシントン・ポストによると、トルコはサウジが暗殺チームを派遣して殺害したと判断している。事件をきっかけに地域大国であるトルコとサウジの対立が一段と激化するのは必至だ。

15人の暗殺チーム

 行方不明になっているのはジャマル・カショギ氏(59)。同氏は離婚に必要な書類を届けるため10月2日午後1時ごろ、領事館に入った。新たに結婚することになっていたトルコ人のフィアンセが領事館の外で待っていたが、閉館した午後5時になっても出てこなかったため、警察に届けた。

 同氏は現在、米国に滞在中。ワシントン・ポスト紙の記者としてムハンマド皇太子らサウジ指導部を批判する記事をたびたび書いていたことから、領事館を訪れれば拘束されるかもしれないと懸念、入館前に携帯電話をフィアンセに預け、自分が出てこなかった場合、エルドアン・トルコ大統領の側近に電話するよう伝えていた、という。

 イスタンブール警察が領事館周辺の監視カメラを調べても、同氏の姿は映っておらず、警察は領事館内にまだいるとの立場を取っている。事態を重視したトルコ外務省はサウジの駐トルコ大使を呼んで質したが、大使は同氏の拘束を否定。サウジ政府も同氏が行方不明というのは「誤り」と一蹴した。

 しかし、6日付のワシントン・ポストは、サウジが派遣した15人の暗殺チームによって「同氏はすでに殺害された」とトルコ側が見ていることを報じた。情報筋の1人は暗殺が事前に準備された計画だった、としている。同紙は同氏が一部のサウジ支配層と関係が深いことから「特に危険」と判断されたとの見方を伝えている。

サウジ皇太子が指令か

 サウジを牛耳るムハンマド皇太子も米メディア、ブルムバーグとのインタビューで「彼は入館してから2、3分後か1時間後に館外に出た。トルコ当局が館内を捜索したいならやればいい。隠すものはない」と大見えを切った。こうした中、米国務省もサウジに対し、カショギ氏の居場所についての情報を要求、 米議員らも同氏の解放を呼び掛けるなど国際的な懸念が高まっている。

 同氏はムハンマド皇太子が推進する国家改造計画やイエメンとの戦争に批判的で、昨年、身の危険を感じて米国に渡り、その後もワシントン・ポストで皇太子らに厳しい記事を書いてきた。ベイルートの消息筋は「すでにサウジ本国に拉致されたのではないか。どうであれ、ムハンマド皇太子の指令であるのは間違いない」と指摘している。

 こうした見方が支配的なのも、剛腕の皇太子には意に沿わない者、自分の方針に反対の勢力を拘束、監禁してきた“前科”があるからだ。2017年11月にレバノンのハリリ首相をサウジに呼び付けて約2週間監禁。また同じ頃、王族ら皇太子の反対勢力約200人を拘束し、財産を没収した。皇太子自身、3年間で1500人を拘束したことを明らかにしている。


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