2024年12月23日(月)

中東を読み解く

2018年10月7日

イラン、カタール関係が背景

 トルコ・サウジ関係はこの失踪事件が起きる前から冷却化してきた。その背景には大きく言って3つの理由がある。第1に、イランをめぐる関係だ。サウジにとって断交中のイランは今や不倶戴天の敵。サウジ側はイランがシーア派革命の輸出を画策し、シリアではサウジと敵対するアサド政権を、隣国のイエメンではこれまたサウジと交戦中のフーシ派を支援している、と非難している。

 しかしトルコにとってイランは同盟国に近い。とりわけシリア内戦では、トルコ、イラン、ロシアは「3国枢軸同盟」を結成しており、シリアの戦後の将来についても緊密に話し合っている。しかし、イランと良好な関係を持つ国は「敵対国」というのがサウジの基本路線だ。

 第2に、カタールをめぐる関係だ。サウジや弟分のアラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどアラブ4カ国はカタールがイランとの関係を強化していることを理由に2017年に断交し、国境の封じ込めを図った。カタールは食料をサウジなどからの輸入に100%依存していたため、たちまち深刻な危機に直面した。

 しかし、この窮状に救いの手を差し伸べたのがトルコだった。トルコは食料を緊急援助し、2000人規模の軍部隊をカタールに派遣、今もドーハに軍事基地を置いている。カタールもこうしたトルコに150億ドルの投資を行い、低迷していたトルコ経済の立て直しに尽力した。これがサウジにとっては面白くない。カタール封じ込めの効果が薄くなってしまったからだ。

 第3に、イスラム主義政党に対する考え方の違いだ。トルコはエジプトのイスラム原理主義組織モスレム同胞団出身のモルシ政権が軍事クーデターで現大統領のシシ将軍に打倒された後、同胞団出身者の事実上の亡命を受け入れ、イスタンブールへの居住を許した。カタールも同胞団支援では共通している。

 一方で、厳格なイスラム教ワッハーブ派の戒律を守るサウジだが、イスラム主義政党は許さず、厳しく規制している。イスラム主義者が台頭して、サウド王家に脅威を及ぼすことを恐れているためだ。トルコがモスレム同胞団を保護していることにサウジが大きな懸念と怒りを抱いているのはこうした背景がある。

 この他、アラブの主導権争いも絡んでいる。サウジのムハンマド皇太子はトランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー上級顧問と親密な個人的関係を築き、それを土台に反イラン連合を米国と組んだ。「水面下ではイスラエルも連合に加わっている」(ベイルート筋)とみられ、事実上、「米・サウジ・イスラエル」という「3国連合」が形成されている。

 トルコがイラン・ロシアとの「3国枢軸同盟」を構築しているのも、3国連合に対抗する意味が強いといえよう。サウジ人ジャーナリストの失踪事件は複雑な中東情勢に大きな波紋を呼ぶことになった。

  
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