シリア紛争の終わりに向けた2つの最終戦争が始まった。1つは反政府勢力の最後の砦である北西部イドリブ県に対するシリア政府軍とロシア軍による攻撃。もう1つは米支援のクルド人民兵軍団による過激派組織「イスラム国」(IS)への総攻撃だ。トランプ政権がシリア政策を変更したとされる中、地域大国イランやトルコも絡み、紛争の最終章の幕が開いた。
見せしめの絞首台
シリア政府軍とロシア軍が9月4日からイドリブ県に対する空爆に踏み切り、これまでに300回を超える爆撃を実施、市民ら約30人が死亡した。シリア軍機は非人道的な“焼夷弾”である樽爆弾を投下している。攻撃の激化で、民間人数万人がトルコ国境方面に逃避、新たな人道危機が発生しつつある。
アサド政権とロシアはまず、徹底的な空爆で反政府勢力の拠点を叩き、その後に地上部隊を侵攻させる作戦だ。政府軍は元反政府戦闘員らを新たに新兵として徴募し、第5師団に編入、イドリブ侵攻に向けた先兵の一部とするようだ。攻撃には、レバノンの武装組織ヒズボラやイラクの民兵などアサド政権を支援するイランのシーア派軍団も配備されている。
同県には国際テロ組織アルカイダ系の「シリア解放委員会」(HTS、旧ヌスラ戦線)やトルコが後ろ盾になっている反政府武装組織など戦闘員約7万人が立てこもっているといわれる。ベイルートからの情報によると、HTSが同県の60%を、残りをトルコ支援の反政府武装勢力が支配している、という。
HTSなどは政府軍の侵攻に備え、塹壕を掘り、地雷を埋設、戦略的な橋を落とすなど防衛線を強化。特に最近、懸念されているのがHTSの住民に対する監視と暴力だ。住民が政府側に携帯電話などで情報をリークすることを警戒し、県都のイドリブでは町中に監視カメラが設置された。
北部のハレムという町の広場には9月初め、これ見よがしに絞首台が新設された。政府に内通するスパイや政府との和解を主張する“裏切り者”を見せしめのために処刑する絞首台だという。HTSはこれまで、住民ら1万人以上を連行、秘密の収容所で拷問や処刑を繰り返しているとされる。