2024年12月13日(金)

中東を読み解く

2018年7月24日

 米国のイラン核合意離脱に伴い、対イラン経済制裁の再発動が近づく中、両国の非難合戦が激化、ペルシャ湾の石油の大動脈ホルムズ海峡の封鎖まで取り沙汰される事態になってきた。トランプ米大統領は22日、イランのロウハニ大統領に向け、「米国を脅すな。さもないと、史上経験したことのないような重大な結末になる」などと恫喝した。

(a-poselenov/Gettyimages)

ホルムズ海峡危機も

 トランプ大統領が核合意を離脱した5月以降、ポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)を中心にイランに対する非難攻勢が強まった。とりわけポンペオ長官は永久的な核開発の放棄、ミサイル開発の中止など12項目の要求を突き付け、イラン指導部の“腐敗ぶり”を叩き、市民に反政府行動を取るよう煽ってきた。

 トランプ政権はこうした大々的な宣伝戦の一方で、イランを経済的に締め付けるため、経済制裁の再発動に加え、日本を含めたイラン産原油の輸入国に対し、輸入を完全に停止するよう要求。応じない国の企業については、米国の金融システムから締め出すなどの「2次制裁」を課す方針を打ち出した。制裁の再発動は第1次が8月6日、第2次が11月4日だ。

 米国の動きにイラン側も黙ってはいなかった。今月、イラン核合意維持の協議のため欧州を訪問したロウハニ大統領は「他の国が輸出できるのに、イランだけができないのは無意味だ」としてホルムズ海峡の封鎖を示唆、最高指導者のハメネイ師も最近、この発言を支持した。

 ロウハニ大統領はさらに22日になって、イランとの戦争は大戦争になるだろう、と強く警告した。これに対し、トランプ氏が強く反発、「史上経験したことのないような重大な結末になる。気を付けろ」とツイートした。同氏は昨年、北朝鮮の金正恩労働党委員長に対し「世界がこれまで見たことのないような炎と怒りに包まれる」と脅しており、今回の発言も似通っている。

 両国指導者の丁々発止の応酬にほくそ笑んでいるのが革命防衛隊などイランの保守強硬派だ。イラン核合意がトランプ氏にとって「最悪の合意」なら、保守強硬派にとっても同じように「最悪の合意」だ。なんとなれば、合意により、核武装の道がほぼ閉ざされてしまったからだ。

 だが、米国が合意を破棄したことにより、平和を望まない“大悪魔”米国を証明し、国民を反米で結束させる土台が出来上がった。ロウハニ大統領に奪われてきた政治の主導権を取り戻すことも可能になった。合意前の経済制裁下でも裏経済を牛耳ってきた実績があり、勢いを増すことは確実だ。

 逆にロウハニ大統領は苦しい。米国を除く合意の当事者である英仏独中ロの5カ国と合意維持を図ることで一致しているものの、米国抜きでは合意は事実上、破綻状態。合意と経済制裁解除で、一時はイランへ進出してきた外国企業が米国の「2次制裁」を恐れて撤退の動きを強めているのも痛い。通貨リアルの価値が半減、経済不安が広がり、国民の抗議行動も活発化している。


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