2024年4月20日(土)

中東を読み解く

2018年4月16日

 米英仏3カ国が4月14日未明、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして武力行使に踏み切った。しかし、アサド氏に対するトランプ米大統領の強硬な言葉とは裏腹に、攻撃はロシアやイランに被害が出ないよう抑制された出来レースのような趣が強く、アサド政権の戦争継続能力に「なんら影響のない“茶番”」(ベイルート筋)。かえって米欧の及び腰が浮き彫りになった。

14日、ホワイトハウス前でシリア攻撃を抗議する人々(Photo by Tasos Katopodis/Getty Images)

新しいレッドライン

 攻撃が行われたのはシリア現地時間の14日午前4時。ほぼ1年前の米単独攻撃では標的は1カ所だったが、今回はダマスカス近郊の科学研究所、中部ホムス県の兵器工場、貯蔵所など化学兵器に関連した施設3カ所が標的となった。発射された巡航ミサイルも前回のほぼ2倍の105発(米発表)に上った。

米軍は地中海上の艦船3隻とB1戦略爆撃機が、英軍はキプロスの基地から発進したトーネード戦闘機4機、潜水艦1隻が、仏軍はミラージュ戦闘機とフリゲート艦4隻がそれぞれ作戦に参加した。英仏が攻撃に賛同し、西側主要国の結束を示すことができたのはトランプ大統領にとっては大きな成果だった。

 しかし、ダンフォード米統合参謀本部議長によると、ロシア側にはシリアでの衝突を回避するホットラインを通じて、事前に通告していたといい、ロシア軍は標的周辺から退避するなどして被害はなし。イラン関係者やアサド政権軍にも大きな損害はなかった。シナリオ通りに出来レースが実施された感が強い。“茶番”と言われても否定はできない面があるだろう。

 とはいえ、ロシアのプーチン大統領は「国際法違反の侵略」、イランの最高指導者ハメネイ師も「戦争犯罪」と米英仏を強く非難した。トランプ大統領から「けだもの」「怪物」と罵られたアサド氏は「蛮行」と反発する一方、攻撃が行われたその朝、何もなかったかのように、大統領府に通常通り出勤する姿を動画で公表、攻撃にたじろぐことのない大物風に振る舞った。

 ミサイル攻撃の人的被害は3人のけが人だけとされており、この程度の攻撃ではイランやロシアなどからの報復もないだろう。トランプ政権がロシア軍との対決激化を招ねかないよう配慮したあまり、肝心の標的だったアサド政権の戦争継続能力を削ぐ効果はほとんどなかったのが実情だ。


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