2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2018年5月25日

 トランプ米大統領は5月24日、シンガポールで6月12日に開催予定だった北朝鮮の金正恩労働党委員長との米朝首脳会談の中止を発表した。北朝鮮には書簡で通知された。首脳会談の取り止めを仄めかすなど非核化の引き延ばしを図る北朝鮮に大統領が激怒、逆に“梯子を外す戦術”に出たというのが深層だろう。再び緊張が高まるのは必至の情勢になった。

(Photo by Scott Olson/Getty Images)

これこそ予見不能のトランプ流

 トランプ氏は書簡の中で、会談を中止した理由について、北朝鮮による敵対的な言動を挙げた。具体的には言及していないものの、北朝鮮の金桂冠第1外務次官が「一方的な核放棄を強要するなら、首脳会談を再考せざるを得ない」と批判したこと、また崔善人姫(チェソンヒ)外務次官も首脳会談の再考を最高指導部に提起する、と強硬な姿勢を示したことを指している。

 特に大統領は第1外務次官の首脳会談再考の談話に「驚き、激怒した」(米紙)と伝えられている。第1次官はボルトン補佐官(国家安全保障担当)が「リビア方式」での非核化を主張していることに反発し、ボルトン氏への嫌悪感を露わにした。リビア方式とは非核化を先行させ、その後に経済制裁を解除するというやり方だ。

 大統領はまた、崔次官が非核化で譲歩をしないと強調しているペンス副大統領を「無知で間抜け」と非難したことにも立腹している、という。トランプ氏は当初、11月の中間選挙を有利に運ぶため、また朝鮮半島の平和貢献でのノーベル平和賞に色気を出していたことなどから、非核化の達成と引き換えに金正恩体制の保証と、リビア方式を適用しないことを早々と宣言した。

 しかし、大統領がこうして前のめりになっていることに政権内部や与党共和党からも懸念と批判が続出。米国の「完全」「検証可能」「不可逆的」という非核化3原則を求める声があらためて強まっていた。その上、事前の交渉で、北朝鮮が過去の交渉と同じように愚図り出し、非核化に至る期間延長などさまざまな要求を突き付けてきた。

 北朝鮮に成果なく見返りを与えてきたとして、歴代政権を非難してきたトランプ氏にとって、こうした北朝鮮の態度は承服できかねるものだった。トランプ氏からすれば、元々、首脳会談を提案し、関係を正常化したいと望んでいるのは北朝鮮の方だという思いがある。「短期間での非核化」という米国の要求の本気度を示すために、あえて梯子を外したというのが深層だろう。予見不能な“トランプ流”の真骨頂だ。


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