2024年4月20日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2018年5月7日

 今回のテーマは「米朝首脳会談とノーベル平和賞」です。ワシントンでは北朝鮮の非核化に加えて、すでに誰がノーベル平和賞を受賞するのか、「手柄」に関する話題が上がっています。特に、ドナルト・トランプ米大統領に熱狂的なトランプ信者での間では、トランプ氏のノーベル平和賞受賞は当然な雰囲気になっています。

 トランプ氏がノーベル平和賞を意識して米朝首脳会談のインパクトの大きさ及び演出を重視すれば、開催地は板門店になります。本稿では、米朝首脳会談に臨むトランプ氏の心境をノーベル平和賞と絡めながら分析します。

(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

メディエーターの仕事

 今回の南北首脳会談において、韓国の文在寅大統領は仲介者(メディエーター)の役割を果たしました。言うまでもなく、メディエーターは、対立する双方からの信頼がベースになければ成功しません。

 まず、メディエーターは双方のメッセージを伝え感触を探ります。次に、相違点を明確化します。そのうえで、それを小さくするために双方が受け入れられるアイデアや選択肢を提示して、合意に至るまでのプロセスを促進していきます。

 「徒歩の橋」のベンチに座り文氏と金正恩北朝鮮労働党委員長の両首脳は、約30分間にわたり2人のみで会談を行いました。そこで、文氏は金氏の相談に乗り、米朝首脳会談が生産性の高い会談になるための提案を行ったのでしょう。

 効果的なメディエーターは、対立する双方の欲求に焦点を当てます。仮に文氏が、金氏の欲求は体制保障による安全確保であるのに対して、トランプ大統領のそれは歴代米大統領が成し得なかった朝鮮半島の和平という偉業と捉えているとします。この場合、文氏は朝鮮戦争休戦協定を平和協定に転換することの意義を金氏に強調したでしょう。というのは、平和協定はトランプ・金両首脳の欲求を満たすからです。

 しかも、韓国、日本及び周辺国の安定も確保できます。平和協定の署名には中国の参加が必要なので、同国のメンツを立てることができるというメリットも存在します。

 文氏にもレガシー(政治的遺産)づくりとメンター(師)である盧武鉉元大統領が果たせなかった終戦と国交正常化の実現という欲求が存在しているとみてよいでしょう。米朝首脳会談が成功すれば、メディエーターの役に徹した文氏の貢献は看過できず、同氏に対する評価がかなり高まることは間違いありません。従って、文氏がノーベル平和賞を受賞しても納得がいくところです。


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