読み間違えた金正恩
金正恩氏はこれまで巧みに立ち振る舞ってきた。ミサイルと核実験で挑発行動を繰り返した昨年とは大きく異なり、2月の平昌五輪を契機に韓国との南北融和に戦略転換。韓国を介してトランプ氏から米朝首脳会談の合意を取り付け、韓国の文在寅大統領との首脳会談では対話による平和を希求する指導者の姿を世界に見せ付けることに成功した。
金正恩氏の思惑は米朝首脳会談で北朝鮮を核保有国として認めさせ、核と弾道ミサイルの段階的な放棄の見返りに、金正恩体制存続の保証や経済、エネルギー支援を確保し、国家的な苦境から脱却を図りたいというものだ。韓国に仲介させて、まんまとトランプ氏に首脳会談を受諾させた。
だが、首脳会談中止の決定は金正恩氏にとっては不意打ちで、その描いたシナリオは大きく狂ってしまった。「金正恩氏は米国を交渉の場に引きずり込むという念願をいったんは手に入れた。だが、トランプ政権は歴代政権とは異なり、過去の“常識”は通用しない。罠にはめたつもりが、逆に罠にはめられたのではないか」(アナリスト)。
事実、トランプ政権は見返りを与えることなく、北朝鮮に拘束されていた人質3人の解放を勝ち取り、すでに米国に帰国させた。これに対し、北朝鮮側は24日北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場を破壊する式典を行い、5カ国からメディアを入れて取材させた。北にとっては米朝首脳会談に向け、非核化の意思を示す狙いがあったが、無駄な取り組みに終わってしまったのではないか。
トランプ大統領が金正恩氏に送った書簡には「あなたは核戦力について語るが、われわれが保有する核戦力は非常に強力だ。私はそれが決して使われずに済むことを祈っている」と述べられている。抑制の効いた恫喝だ。金正恩氏は強い恐怖感にさいなまれているかもしれない。
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