長期駐留に転換
そして、シリアをめぐる状況に重大な変化が生まれた。トランプ政権が新政策を決定したからだ。6日付のワシントン・ポスト紙によると、早期撤退を主張してきたトランプ大統領がこのほど、米部隊の無期限の駐留を承認した。
シリア北東部にはデルタフォースやレンジャーなど米軍の特殊部隊2200人が駐留し、SDFに対する訓練や助言、武器弾薬の供与などを続けてきた。しかし、選挙期間中からシリアからの撤退を主張してきたトランプ大統領が4月、「極めて近いうちに」撤退させると表明し、マティス国防長官らが駐留継続を進言していた。
米軍のシリア駐留の当初の目的はISの掃討支援だった。しかし、同組織がほとんど壊滅状態になる一方で、イランとロシアがシリアでの存在感を増していることから、その影響力拡大を阻止することに目的の重点が移っていた。また軍指導部は中東における米国のプレゼンスを維持するためにも同部隊の存在は欠かせない、との考えに傾いていた。
しかし、衝動的で戦略性のないトランプ氏がこの新政策をいつまで持続させるのかは分からない。北東部の大河ユーフラテス川の東側に駐留する米部隊はあくまでもその任務をSDFの支援に特化しているが、最近、SDFとシリア政府軍が交戦し、米軍が巻き込まれる懸念も高まった。米軍に死傷者が出るようなことがあれば、同氏が即時撤退を言い出すかもしれない。
イランの脅威を訴えて、長期駐留を主張してきたマティス国防長官は正論を唱え、トランプ大統領の不興を買っている。トランプ氏はかつて、長官のあだ名である“狂犬”に象徴される勇猛果敢な軍歴を敬い、たびたびホワイトハウスでハンバーガーの夕食を共にした。しかし、1カ月半前からまったくなくなった。
著名なジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏は新著の中で、長官がトランプ氏を小学校5、6年の能力しかない、と嘆いていたことを披歴しており、大統領が外交や軍事的戦略を持っていない現実にウンザリし、更迭も覚悟しているようだ。ケリー首席補佐官も更迭されることが確実視されており、11月の中間選挙が終われば、大きな人事刷新が行われることになるだろう。だが、その時、シリア新政策が生きているのかどうかは分からない。
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