2024年4月19日(金)

食の安全 常識・非常識

2011年7月29日

 これまでの検査数は、厚労省のまとめで、畜産物や農産物、水産物など含めて7824件(7月24日現在)。検査機関がフル稼働してこの数字です。一方、肉用牛の飼育頭数は福島県だけで約8万頭に上ります。もし稲わらのような“ミス”、役人が気付かず一部の生産者がうっかりやってしまう過ちが、牛肉だけでなくほかの農産物や水産物でもあるとしたら? 前述したように、その可能性を否定できるわけではありません。それをモニタリング検査で拾い上げるには、牛肉の検査だけに血道をあげている訳にはいかないのです。もうしばらくすると、コメの収穫時期となり、かなりの数のサンプリング検査が必要となることも忘れてはいけません。また、放射性セシウムに高濃度に汚染された腐葉土が見つかり、家畜糞尿から作られる堆肥の汚染も懸念されています。こうしたものの検査もしなければなりません。

 「全頭検査」というのは消費者には分かりやすく歓迎されるでしょう。しかし、その弊害や費用負担も考慮する必要があります。結局、現実には、生産現場における厳しい指導、取り組みと、効果的な検査の組み合わせ(肥育農家1戸ごとに1頭を検査するなど)しか、解決策はない、と私には思えます。

 それに、餌などに混じり牛に食べられた放射性セシウムは、牛の体中に広がりますが、糞尿などにも混じり排泄されます。汚染されていない飼料に切り替えれば、牛の体内の放射性セシウムは約60日で半分になるとされています。120日、つまり4カ月たてば1/4(1/2×1/2)となります。現在の牛肉汚染がずっと続くわけではありません。

 重要なのは、農家の理解としっかりとした生産工程管理です。検査は、そのことを確認する手段なのです。

 肝心の生産に不備があり、一部の生産者に管理する力がなかったのが、今回の牛肉のセシウム汚染の真相です。個々の生産者の能力の問題というよりも、それだけ被災地の人々が疲弊し、生産に対する意欲を失っているのでは、と思えてなりません。福島県の農家によると、賠償金がまだ支払われていない地域も多く、高齢の農家の中には「これを機会にもう農業をやめる」と言う人が大勢いるそうです。

 だからこそ、「全頭検査で安全確認を」という主張は、「木を見て森を見ず」の思考です。そしてどうしても政治家は、大衆受けを狙ってそうした対策を講じがちです。そのことの愚かさに消費者も早く気付くべきです。


参考文献
東日本大震災関連情報 食品・水道
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/shokuhin.html
牛肉からの暫定規制値を超える放射性セシウムの検出について
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/gyuniku/index.html
宮城県の環境モニタリング結果
http://www.pref.miyagi.jp/gentai/Press/PressH230315-3(sokutei).html
福島県原子力発電所事故による農産物被害等関連情報
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=23692
福島県肉牛の出荷・移動の制限について
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24660

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