世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年10月23日

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 10月3日、アーミテージ元米国務副長官とナイ元国防次官補らによる日米同盟強化に関する報告書‘More Important than Ever - Renewing the U.S.-Japan Alliance for the 21st Century’(アーミテージ・ナイ報告書の第4弾)が発表された。同報告書は、トランプ政権の言動により日米同盟の先行きについての不透明感が増していることに警鐘を鳴らしつつ、日米同盟を強化する方策を提言したものである。同報告書の安全保障関連についての内容の概要は、10月22日付け本欄で紹介した通りである。今回は、経済関係分野に焦点を当てて紹介する。経済面でも、やはり焦点となるのは中国への対抗である。

(Iefym Turkin/justinroque/iStock)

 経済面では、まず、日米安保条約第2条を重視し何度も触れている点が、注目に値する。同条は「締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによって、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する」という内容である。報告書は「トランプ政権は、日本が経済的ライバルではないことを認識する必要がある。日本は、価値観と利害を共有する重要なパートナーであり、日本の経済的成功は米国に直接的および間接的な利益をもたらす」と指摘する。日本の対米貿易黒字を執拗に問題視するトランプ政権への厳しい批判であり、適切な内容である。日米間では、物品貿易協定に向けた交渉が始まったが、ムニューシン財務長官は為替条項を導入することを求めると表明するなど、引き続き不透明感が漂う。

 報告書は、「TPP交渉は、米日をこれまでにないほど安保条約第2条の目標の実現に近づけた」と指摘、「米国のTPPからの離脱は、中国の経済的選択を形作るのに必要な、ルール形成と市場の梃子を、米日から失わせた」として、トランプ政権のTPP離脱を遺憾であると批判する。そして、中国が貿易と投資のルールの代案を主導しようとし続ける中、米日が如何にして勢いを取り戻せるか疑問である、という。トランプ政権の対応が、対抗すべき中国の動きをかえって助長しているとの問題提起であり、正鵠を射ている。報告書は、日本にCPTPPの推進を求め、最終的に米国がそれに参加できるように求めているが、日本としては、指摘を待つまでもなく、そのように進めることになると思われる。

 同時に、当然のことではあるが、報告書は対中国ということを強く意識した内容となっている。「米国と日本にとり、おそらく最大の地域的チャレンジは、インド太平洋地域における中国の政治的・経済的影響力の増大であろう。特に中国の一帯一路構想は、東南アジア、インド洋沿岸、太平洋島嶼国などの小国に対する大きな梃子を中国に与えている。中国のインフラ投資は多くの場合歓迎されているが、それに伴う、政治的・経済的梃子は歓迎されていない」として、日米同盟は魅力的な代案を示し得ることを示すべきだ、と提言する。具体的には、インフラ整備基金を創設することを提案、多くの国々が、債務の罠、腐敗、威圧の回避を望んでいるので、日米同盟を中心とする高い基準の投資は魅力的なのではないかと言っている。少しパンチに欠ける内容ではあるが、最近、中国による債務の罠の回避に注目が集まっているという意味では、時宜にかなっている。日米に加え、豪州、インド、ニュージーランド等を主要なパートナーとして、着実に取り組んで行くほかないであろう。

 大きく見れば日本および日米同盟は、経済関係においてもいわゆる「米中新冷戦」の文脈に置かれることになろう。その中でトランプ政権は自由貿易や既存のルールに重きを置かず、日本にも対米貿易黒字をめぐり厳しい注文を付けている。そうした状況へのアンチテーゼとして、今回のアーミテージ・ナイ報告書が重視する日米安保条約第2条は有意義であると思われる。トランプが聞く耳を持つとはなかなか期待できないが、繰り返し問題提起をしていくことが重要ではないだろうか。

  
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