WEDGE REPORT

2011年7月31日

 森林は多面的機能を持っています。国土保全機能や生物多様性の保全などです。量が増えたことで、国土保全機能は向上しました。しかし人工林は、放置され間伐が遅れると、木が込み合い、日光が林内に入らず、下草が育たなくなります。落ち葉や下草から作られる土壌が貧弱になると、林地に表面侵食が起き、土砂崩れが起きやすくなります。森林の洪水緩和機能も、土壌が「落ち葉や下草つき」で豊かでなければ発揮されません。

 つまり、昭和30年代に比べれば森林は多面的機能を回復させてきたが、育った人工林が放置されているために土砂崩れや洪水が起きやすくなるという新たな問題が起きているのです。

●林業の再生が必要ということですか?

 日本は、石油などの資源に依存することで、森林を回復させたわけですが、これは持続性がありません。何億年も前の太陽エネルギーの塊である地下資源に依存する生活から、現在の太陽エネルギーの塊である木材を利用する生活に転換する必要があります。国民が木材をもっと使い、林業が再生することは欠かせません。

 しかし、木は切らなければ使えませんが、切りすぎると山は人間にとって危険な存在にもなります。江戸や明治の山を思い出してください。物質利用と環境はトレードオフの側面があります。林業は再生させつつ、使う山と守る山を区分する体制が必要です。また下流の都市住民は、上流の山林地域の住民による森林管理によって安全を保たれている面があるのですから、もっと関心を払わなければなりません。

森と水の関係を
蔵治光一郎氏に聞く

 内閣府「森林に関する世論調査」によれば、国民が森林に期待している上位3項目は、「地球温暖化防止」と「災害の防止」と「水資源の確保」である逆に「木材生産」は2007年には8位(下から2番目)まで落ちこんだ。災害や水資源と森林の関係について、森林水文学(すいもんがく)が専門の蔵治光一郎・東京大学講師(愛知演習林長)に聞いた。

●科学の知見を教えてください

 大前提として自然の営みは非常に多岐にわたり複雑ですから、簡単に解明できるものではありません。大雨や大災害はめったに起こらない確率的な事象でもあります。また、森林や林業分野の予算や人材は他の分野に比べて少なく、研究の蓄積は決して十分ではありません。ですから、わかっていることは限られているということを、まず理解してもらう必要があります。

 森が水の流れに及ぼす作用には大きく分けて「平準化作用」と「蒸発作用」の2つがありますが、森が生き残っていくために備えているものですので、必ずしも人間にプラスに働く「機能」に直結するわけではありません。

 平準化作用とは、雨水を一時的に保水し、川や地下水にゆっくりと流していく作用です。この作用は、大雨の一部を保水し下流に流れる速度を抑えることで「洪水緩和機能」にプラスに働きますし、雨が降らない期間、川にゆっくり水を流し続けることで「水資源涵養機能」にもプラスに働きます。

 蒸発作用とは、雨水を一時的に保水し、水蒸気として大気に戻す作用です。根から吸い上げた水分が葉より大気に戻される、あるいは葉や幹に付着した雨粒がそのまま水蒸気となるといった形で、いわば木が水分を消費しているわけです。

 この作用は、大雨の一部を保水、蒸発させることで「洪水緩和機能」にプラスに働きますが、保水した水は川に流れませんので「水資源涵養機能」にマイナスに働いてしまいます。以上のことは、森と水の関係を研究する森林水文学の基礎的な知見です。

→次ページ「荒れた人工林と管理された人工林の違い」

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る