2024年4月20日(土)

Wedge REPORT

2011年7月31日

●手入れ不足の荒れた人工林は、どういう作用と機能を持つのでしょうか?

 放置人工林は木が密集して生えているため、蒸発作用は大きい。しかし、平準化作用は、木の樹冠ではなく林床の土壌の状態で決まるため、落ち葉や下草がないために土壌が流出し、根が地表に見えているような放置人工林では、平準化作用が小さくなります。結果、総保水力が管理人工林より小さくなり、洪水緩和機能も小さくなることになります。

 荒れた放置人工林と、間伐され管理された人工林を比較すると、大雨が降ったときに、河川の流量の増水の仕方に差が生じることが予想されます。放置人工林は管理人工林に比べ、総保水力が小さく早いタイミングで増水し、一気にピークに達してしまいます。

 また、蒸発する水を「緑の水」、川に流れ、人間が利用できる水を「青の水」とも表現しますが、下流域の人間が期待しているのは「青の水」を増やす森林の作用です。これが小さい放置人工林は、水枯れも引き起こしやすい可能性が高い。

 では、人工林のどの程度が放置人工林なのか。行政にはデータがありません。私たち研究者とボランティアグループが共に取り組んできた「森の健康診断」では、矢作川流域全体の人工林の約6~8割が、間伐遅れの不健康人工林と診断されました。人工林管理放棄問題は、喫緊の課題です。

日本の森林の最大の問題は「荒れた人工林があふれていること」にある。荒れた人工林を放置すると、山の総保水力が小さく、河川の流量が一気にピークに達することが予想されているようだ。今回の豪雨では多いところでは降り始めから1000ミリを超えており、このような記録的豪雨に対しても、森林の整備でどれほど防御力を高められるのかはまだ詳しいことはわかっていないようだが、近年の水害の多発から森林への意識を高めていくことは欠かせないだろう。

※本記事は月刊『WEDGE』2010年9月号特集「日本の森林 孤独死寸前」の一部を再構成したものです。


新着記事

»もっと見る