ヒットメーカーの舞台裏

2011年9月7日

»著者プロフィール
著者
閉じる

池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 濡れたおしぼりを穴の開いた樹脂製スティックに巻き、冷凍剤を1~2秒間スティックの端から注入すると、中心部が凍ったおしぼりができる。中はしばらくカチカチだが、外側は5~10℃の適温が保たれる。カー用品などを手掛けるヴィプロス(東京都江東区)が6月に発売した。今夏は当初10万セットの販売計画だった。しかし、テレビ番組の紹介で注目され20万セットに増やした。出荷ベースではその増産分もすでに完売となった。

ヴィプロス 瞬間冷凍おしぼり「プシュ冷え」

 手早く冷たいおしぼりができるため、ゴルフや野球などスポーツでのクールダウンや熱中症対策として、またキャンプや釣りといったアウトドアレジャー向けの需要も掘り起こした。旅先や家庭での急な発熱にも頼れる存在となりそうだ。

 30~40回使える430ミリリットルの冷凍剤(液化ガス)とスティック、おしぼりがセットになって1980円。冷凍用のガスはオゾン層に影響を与えず、かつ燃えにくい代替フロンを使っている。卓上コンロの燃料であるプロパンガスなども冷凍剤として利用できる。だが、社長の村上愼吾(43歳)は「割高になるものの、安全性重視で代替フロンにした」という。

 ヴィプロスは、印刷機械のインキ清浄剤や加工用金型の潤滑剤・防錆剤など工業用ケミカル品の中堅メーカーである東洋化学商会の子会社として2010年に設立された。親会社の社長も兼ねる村上が「プロ用のケミカルを一般消費者の方にも提供したい」として社内ベンチャー的に興した会社だ。

 これまで8品目を商品化し、カーエアコンのコンプレッサー用潤滑剤などが息の長い製品として育ちつつある。「プシュ冷え」は、村上や研究スタッフがヴィプロスの11年版新製品を開発する過程で生まれたのだが、当初の構想からは外れた商品だった。

「一瞬で手軽に氷をつくること」をテーマに

 猛暑となった10年の秋口、村上は翌年に向けたテーマとして「一瞬で手軽に氷をつくること」を指示し、社長業のかたわら自らも研究に取り組んだ。アウトドアなどで氷がさっとできたら楽しいねと考えたのが出発点になったという。

 しかし、開発は失敗の連続で試作品は「いずれも商品化にほど遠い」ものだった。今後に備え、今年3月にはスタッフを集めて半年間の研究報告会を開くことにした。その場で、「プシュ冷え」につながる実験報告があった。携帯型の酸素吸入器で使う樹脂製のマスクを濡れたタオルに当て、注入口からスプレーでフロンを供給するとマスクの部分が瞬時に凍ったのである。

 「おもしろいじゃない」と、村上は早速パイプにいくつか穴を開けたスティックを作らせ、それにタオルを巻きつけて冷凍ガスを噴射させてみた。こうしてタオル中心部が凍る「プシュ冷え」の原型ができた。だが、すでに3月も終わろうとしていたので、村上は「来シーズンの商品かな」と考えた。

 ところが、スティック生産の金型を発注する予定のメーカーに接触すると、「仕事が少ないので5月の連休明けには間に合う」とのことだった。東日本大震災の影響で、自動車部品メーカーなどからの受注が激減していたのである。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る