オトナの教養 週末の一冊

2018年12月21日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

(KatarzynaBialasiewicz/iStock/Getty Images Plus)

 『眠れる森の美女』のオーロラ姫を想像していただきたい。魔法をかけられたために、眠っているように見える、生きているのに意識があるのかないのかわからない状態。

 現実世界においては、魔法ではなく、予期せぬ事故や病気のせいで「グレイ・ゾーン」と呼ばれる曖昧な領域に閉じ込められる可能性がある。植物状態や昏睡状態の人たちだ。

意識があるのに伝えられないだけだとしたら……

 「死ぬ権利」をめぐって争われた米国のカレン・アン・クインラン裁判や、「生きる権利運動」と衝突した米国のナンシー・クルーザンのケースなどに象徴されるように、深刻な脳損傷がもたらす生死をめぐる問題は、法的にも社会的にも、そして患者本人や家族らの心理にも大きな波紋を投げかけずにはおかない。

 生命維持装置をはずすか否かの判断は、患者の事前指示書や「リビング・ウィル」だけに頼るべきなのか? もしそうなら、指示がない場合はどうするべきなのか?

 そもそも、目の前で眠っているように見える患者本人には思考や感情が本当にないのか? 意識があるのに伝えられないだけだとしたら、彼らはどう思っているのか?

 本書は、機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)などの最新脳スキャン技術を用いて、グレイ・ゾーンにいる人びとに「意識」があることを見つけ出した神経科学者の自伝的科学読み物である。

 グレイ・ゾーンにいる人との意思疎通の方法を、著者らがどのようにして突き止めていったのか、そして、いまや急速な発展を遂げている脳科学のこの分野が、科学や医学のみならず、哲学や法律にどれほど大きな影響を与えているかを、著者の心の旅路をたどりつつ、描き出している。

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