オトナの教養 週末の一冊

2018年3月30日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 タイトルから想像した内容ではなかった、と最初にいっておこう。むしろ、想定の先を行き、「医学に進化の考え方を取り入れる」ことで見えてくる地平の広さを示してくれる内容だった。

 「病気を理解し治療法を見つけるためには、既存の視野を少し広げて進化の観点からも考えてみることが大事」という問題提起に立ち、最新の医学知見や先駆的な治療法を丁寧に描き出している。

(iStock/kentoh)

「癌細胞も化学療法をだしぬくように進化する」

 『人類の進化が病を生んだ』という邦題は、昨今よく話題にのぼる「進化的ミスマッチ」を想像させる。たとえば、アレルギーと自己免疫疾患が劇的に増加したのは、公衆衛生、抗生物質、家庭用除菌剤が体内の共生微生物を激減させたせいで、「ヒト免疫系は正しく教育されなくなり、正しく制御されなくなった」。このミスマッチが現代の疫病を引き起こした、というわけである。

 こうしたアプローチを紹介する本は、本欄でも何度かご紹介した。本書でも、「第1章 自己免疫疾患とアレルギー」で詳細に論じている。

 ただし、著者は、世間の耳目を集めている抗生物質耐性菌の問題などを述べるにとどまらず、それと同じ間違いが、癌などの分野でも繰り返されている、と警告する。

 <進化をよく知る生物学者らは以前から、こういうことは起こるはずだと警告してきた。ヒトの生殖サイクルが数十年なのに対し、細菌は数時間ないし数分で増殖する。圧倒的に早く進化できるのだ。にもかかわらず、私たちはその警告に耳を貸さず、新しい抗生物質がどんどん発見されることに甘えて、ヒトの病気の治療や予防にざぶざぶと使うだけでなく、成長促進剤として無数の家畜にも与えてきた。その結果、多剤耐性菌や強力な病原性微生物の脅威にさらされることになった。>

 <現在、多くの癌専門医は、微生物と同じく癌細胞も医者が投与する化学療法をだしぬくように進化するということを知らずに、同じ間違いをくり返している。各種の癌による生存率は少しずつよくなってはいるが、多くの症例で治療の妨げになっているのは腫瘍内部で細胞に耐性がつくことだ。>

 このように本書では、自己免疫疾患に始まって、不妊症、腰痛、眼の病気、癌、心臓病、アルツハイマー病の順にとりあげ、これらの病気の本質には進化がかかわっており、「病気を進化的に理解する」ことによって治療のパラダイムが変わり、新たな治療法が生まれつつあることを紹介する。

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