オトナの教養 週末の一冊

2017年5月26日

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 ビル・ゲイツに、「この男の仕事についてもっと多くの人が知るべきだ」と言わしめた、ニック・レーンの最新邦訳が本書である。

『生命、エネルギー、進化』(ニック・レーン 著、 斉藤隆央 翻訳、みすず書房)

 「ニックはジャレド・ダイアモンドのような書き手たちを思い起こさせる。世界について多くを説明する壮大な理論を考え出す人々だ」。そうゲイツが語るように、ニック・レーンは本書で、「独創的な思索家のひとり」としての面目を大いに施した。

 これまでの進化生物学には、わずかな痕跡や現生生物からの推測に頼る心もとなさが、多かれ少なかれつきまとっていた。レーンはそこに、進化におけるエネルギーの重要性という概念を持ちこんで、「物理的に議論できて実験による検証もしやすい」ものにした。

 「化石のような物的証拠がないなかで、生命が誕生してから、原核生物が細菌と古細菌に分岐し、真核生物と有性生殖が登場するまでのいわば『生物学のブラックホール』のプロセスを、唯一確かなことがわかっていると言えそうな太古の地球環境を手がかりに、酸化還元を中心とする化学反応とエネルギー論の観点から緻密な議論できわめて野心的な仮説を組み上げた」(訳者あとがき)レーンの手腕は、さすが、とうなるほかない。

あっさり覆される「伝統的な見方」

 本書の著者ニック・レーンは、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の遺伝・進化・環境部門、UCL Origins of Life プログラムリーダーを務める。2015年には英国生化学会賞を受賞した。一般向け科学書の作家としても高く評価されており、王立協会の科学書賞の受賞歴がある。

 本書で示されている生命の起源に関するレーンの独創的な研究を支援したのが、UCLの学長による冒険的研究賞であったことは、特筆に価する。

 この賞は、パラダイムを転換するアイデアを探る「野心的な思索者」に贈る賞として、ドン・ブレイベン教授の発案により創設された。

 ブレイベンいわく、「人類の利益と認められたものに狙いを定めようとするのでなく、どんなに雲をつかむようなアイデアに見えても、そのアイデアだけを頼りに科学者に資金を与えることも、社会のためになる。それがまれにしかうまくいかないのは、まったく新しい知見はふつう、まるっきり分野の外から得られるものだからだ」。なるほど、「自然は人間の作った境界など顧慮しない」のである。

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