オトナの教養 週末の一冊

2016年12月23日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 行きつけのスーパーで、乳製品の陳列棚が倍以上に広がった。さまざまな効用の菌を売り物にする飲料やヨーグルトが所狭しと並べられ、選ぶのもひと苦労である。腸内細菌が心身の健康に与える影響が次々と明らかになり、消費者の関心が高まっているせいだろう。

 もとより腸内細菌の重要性はいわれてきたが、近ごろは一歩進んで、細菌の多様性やバランスが注目されるようになった。「腸内フローラ」とか「マイクロバイオーム」(宿主に定住する微生物の遺伝子の総体)という言葉に象徴される考えかただ。

 また、「脳腸相関」という言葉はすでに1880年代から提唱されていたそうであるが、近年、腸内細菌が内分泌系や脳神経系、さらには私たちの感情や行動にまで影響をおよぼすことが報告されはじめ、改めて腸内細菌の役割がクローズアップされている、というわけだ。

 私たちの腸、とりわけ大腸の内部には多種多様な微生物が複雑な生態系を構成し、人体と共生している。ごく大雑把にいえば、「食物を分解し人間に必要な栄養素や化学物質を作り、病原体から守っている」のである。

 これと同じことが、土壌環境でも起きている。土壌に生息する微生物は、「植物の根と共生して、病原体を撃退したり栄養分を吸収できる形に変えたりしている」という。

庭づくりとがん治療の経験から

『土と内臓 微生物がつくる世界』(デイビッド・モントゴメリー, アン・ビクレー 著、片岡夏実 翻訳)

 本書の著者であるデイビッド・R・モントゴメリーとアン・ビクレー夫妻は、それぞれ地質学者、環境計画を専門とする生物学者で、いわば土と環境の専門家。モントゴメリーには『土の文明史』(2008年、築地書館)という邦訳書がある。

 二人とも微生物学者でも医者でもないが、新居の庭を土壌改良する過程で微生物の働きに関心をもつようになった。

 おりしも、アンが子宮頸がん(ある種のヒトパピローマウイルスがリスクを高めるとされる)と診断されたことから、自身の健康と微生物、食べものとの関係に切実に向き合うことになる。

 庭づくりとがん治療という、一見つながりのない個人的な体験から、「隠された自然の半分(本書の原題)」の存在に目を見開かされた二人は、各々の専門分野を踏み出し、医学、薬学、栄養学、農学などの分野に分け入って縦横に渉猟した。こうして「微生物がつくる世界」をひとつの物語にまとめあげたのが、本書である。

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