オトナの教養 週末の一冊

2016年10月29日

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東嶋和子 (とうじま・わこ)

科学ジャーナリスト・筑波大学非常勤講師

元読売新聞科学部記者。フリーランスで環境・エネルギー、医療、生命科学、科学技術分野を中心に、科学と社会のかかわりを取材。主著に『名医が答える「55歳からの健康力」』(文藝春秋)、『人体再生に挑む』(講談社)など。新著に『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文春文庫)

 パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、多発性硬化症などの神経性疾患は治らないと、これまで考えられてきた。しかし近年、脳には「神経可塑性」がある、すなわち、自らを配線しなおす力があることがわかってきた。

 私たちの脳は、何歳になっても再生するし、病んだり欠損したりした部分を補うように配線をつなぎかえることで、機能を回復することができるというのだ。

 本書は、治療不可能と考えられていた機能障害の多くが、「神経可塑性」をいかした治療によって劇的に改善する可能性がある事実を、患者と医療者たちの物語とともに紹介する。

 先にあげた神経性疾患のみならず、脳卒中、外傷性脳損傷、自閉症、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、慢性疼痛、視覚障害、さらには心臓疾患に対処するにも、有効な治療法だという。

何にでも効く、副作用のない治療法

 何にでも効く、副作用のない治療法というと、”奇跡”とか”代替療法”をうたうトンデモ本ではないかと疑いたくなる。感動的な回復の物語に惑わされないよう、眉に唾をつけつつ読み始めた。

 ところが、読み進むうち、個々の物語を裏づける臨床研究や、治癒のメカニズムに関する著者の理論がしっかりしているとわかった。

 著者は、コロンビア大学精神分析研究センターおよびトロント大学精神医学部に所属する精神科医、精神分析医。古典と哲学を専攻後、コロンビア大学で精神医学と精神分析学を学んだ。作家・エッセイスト・詩人でもある。

 そう紹介されているとおり、本書には「神経可塑性研究の最前線」が、一般の読者にもわかりやすい平易な言葉で、ときに詩的な表現で感動的に描かれている。

 「外部からエネルギーを加えるなどの手段を通じて、脳のニューロンにおける配線の様態を変え」、治癒を促すという「神経可塑性」を用いた治療には、さまざまなものがある。

 本書で紹介されている例は、視覚化による慢性疼痛の治療、歩行によるパーキンソン病の症状改善、光(低強度レーザー)を当てて休眠中の神経回路を目覚めさせる治療、舌に刺激を与える小さな装置を用いた神経調節法、音・音楽・音声を用いた「サウンドセラピー」や「リスニングセラピー」など。

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