「VR元年」と言われた2016年から3年が経過し、社会に徐々に浸透してきたVR(仮想現実)技術。エンターテインメント分野の枠を超え、ビジネスでも実用化が始まったVR技術は、今後どんな進化を見せるのか。約30年にわたりVR研究を行ってきた廣瀬通孝氏と、経済学者の土居丈朗氏が、VR技術が持つ可能性と、経済や社会にもたらす影響について語る。
編集部(以下、――)現在のVR市場をどう見ていますか。
廣瀬:近年では、VRという言葉がさまざまな媒体で取り上げられています。私がVRの技術に出会ったのは1989年のことで、当時はVRを構築するための機器を1つ買うだけで数百万円かかっていましたが、今ではヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)が数万円で手に入ります。価格がここまで廉価になったことはブームの大きな要因でしょう。
今ではハイテクに精通した人だけでなく、多くの企業や個人にまでVRの利用が広がっています。2014年に米フェイスブックがVR企業のオキュラスを20億ドルで買収したことも注目を集めるきっかけになりました。
土居:企業利用の広がりについていえば、日本では特に建設業界でのVR利用が活発で、すでに危険体感訓練や施工確認訓練などでVRを活用しています。建設業界は人手不足が深刻なうえに、もともと「三次元」で仕事を行うため、VRと相性が良い。
こうした民需だけではなく、公需も高まっています。特にインフラの老朽化への対応は喫緊の課題で、これまでよりも少ない人手、低いコストで対応できる方法が渇望されています。橋の裏側など人が入っていけないような箇所のデータをドローンで取得し、それをソフトで解析して老朽箇所を検知する取り組みが始まっていますが、ここにVR技術を使い、仮想空間上でデータを3D化できれば、より精度の高い確認が可能になるでしょう。