先月、このWEDGE REPPORTで、生活保護の受給者をねらった貧困ビジネスについて記事にした。(参照記事:「生活保護費増加の陰で貧困ビジネス拡大」)
舞台は神奈川県内にある6年前までホテルだった建物。NPOが横浜や川崎で声をかけて集めてきた路上生活者をこの建物に住まわせ、生活保護を受給させる。様々な名目でその保護費の大半を徴収することで、NPOは大きな利益を得ている……。
記事では、そうした実態を明らかにしたが、その後の取材で、この建物に住む男性からさらに詳しく話を聞く機会を得ることができた。この男性が語ってくれたのは、貧困ビジネスによって搾取されながらも、他に頼るところもない生活困窮者たちの過酷な現実だ。以下、男性の話に耳を傾けてほしい。
「立派ないい施設ありますよ」
私がNPOの関係者に声をかけられたのは、横浜市内の駅前でベンチに座っていたときでした。「住むところがなくて困ってませんか?」。30代くらいの若い男でした。「立派ないい施設がありますよ」って。
当時の私は仕事を失った上に住むところもなく、これからの生活をどうしようかと途方に暮れていたときでした。新たに仕事を見つけようにも、もう若くはありません。そこで、「怪しい話だな」と思いつつも、若い男について行くことにしました。車に乗せられ連れて行かれたところが、いま住んでいる建物だったのです。
ここに部屋を割り当てられると、すぐに住民票を提出して住所登録を済ませました。そのままNPOのスタッフに急かされて生活保護の申請の窓口に行きました。部屋の賃貸契約書など必要な書類はすべてNPOが用意してくれます。窓口ではスタッフが同席して、担当者からの質問に代わって答えてくれたので、申請手続きはいたってスムーズに終わりました。
生活保護の申請が認められると、受給者証が発行されますが、これはNPOに預けることになっています。預けるというと、響きがいいですが、実際には取り上げられるようなものです。これを管理することで、NPOは確実に保護費から集金をできるしくみになっているのです。
詳しく説明しましょう。保護費の支給は毎月上旬にやってきます。この日は、役所の玄関の前にNPOのスタッフが待っていて、そのときだけ私たちに受給者証を返してくれます。それを受け取り、生活保護の窓口の担当者に示すと、封筒に入った保護費を手渡しで受け取ることができるのです。私が受け取る保護費は13万円あまりになりますが、このお金を役所の玄関で待ち構えているNPOのスタッフに封筒ごと渡さなくてはいけません。もちろん受給者証も再び取り上げられます。NPOはこの保護費から家賃や水道光熱費、弁当代などを差っ引いてから、残りの金額をそれぞれの住人に返すのです。NPOにとって、受給者証さえ管理していれば、取りっぱぐれることはないということになります。
家賃は5万3千円あまりします。水道光熱費代は、いくら水道や電気を使おうが関係なく一律1万5千円です。きっと各部屋にメーターを取り付けるための設備投資が惜しいのでしょう。だから、「どうせ同じ料金を取られるならば」と、エアコンなんて使いっ放しにしています。食事は、NPOに頼むと1日3食分の弁当が出てきます。でも、ご飯に簡単なおかずが付くだけですよ。私は「自分でなんとかするから必要ない」と断っています。だって弁当代だけで月に3万5千円も取られますから。
なかにはカセットコンロを持ち込んで部屋で料理をする人もいますが、カセットコンロの火が原因でこれまでに2度、ぼや騒ぎが起きました。消防車も出動して、近所にも迷惑をかけたようです。