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2011年9月26日

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亀井敬史 (かめい・たかし)

立命館大学衣笠総合研究機構・研究員

1970年大阪生まれ。94年京都大学工学部原子核工学科卒業後、99年同大学院工学研究科博士課程認定退学、工学博士。99年天理大学非常勤講師、02年ロームなどを経て11年より現職。著書に『核なき世界を生きる~トリウム原子力と国際社会~』(高等研選書)、『平和のエネルギー トリウム原子力 ガンダムは“トリウム”の夢を見るか?』(雅粒社)ほか

電気自動車等の材料になるレアアースの副産物として産出されるトリウムが、再び脚光を浴びている。 安全性が高く発電出力を調整できるトリウム原子炉(溶融塩炉)を 実用化することができれば、軽水炉や自然エネルギー発電の補完にもなる。

 原子力は発電時に二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギーだが、放射性廃棄物が発生する。一般に意識されることはほとんどないが、国内の(a)使用済み核燃料の保管場所は、もうすぐ満杯となる。使用済み核燃料は、まず発電所の冷却プールに置かれるが、その容量は日本全体で約2万トン。現在、日本の使用済み核燃料の量は約1万4000トンだ。今後、毎年約1000トン発生する。抱え切れない分は六ヶ所再処理工場にある冷却プールに保管される。これは容量が3000トン。昨年、東京電力が中心となって青森県むつ市に「中間貯蔵施設」の建設を始めた。これも容量は3000トン。早晩、溢れることは目に見えている。



 

 安定的に電力を供給し、かつ温暖化対策も実施することを踏まえれば原子力は続けてかまわない。むろん安全を確保した上で、だ。その場合でも、このような使用済み核燃料の問題を考えていなければ、いずれにせよ数年以内に原子力政策は行き詰まる。この使用済み核燃料の問題は、特にそこに含まれる(b)プルトニウムをどうするかが最重要課題である。周辺国から核兵器への転用を警戒されるからだ。


 

  本来─今後もそうだが─、プルトニウムは貴重な人工の核分裂性物質であり、エネルギーに転換することが目的だ。自然界に大量に存在するが、そのままでは燃えないウラン238が中性子を吸収してプルトニウムが生まれ、エネルギー資源を増大させることができる。これが50年前に見た(c)高速増殖炉の夢だ。かつての夢はよいとして、われわれが考えなければならないのは、今、そしてこれからのことだ。


 
 

 プルトニウムを利用するには高速増殖炉が性能面でもっとも優れるとして開発を進めてきたが、40年以上の歳月と1兆円以上の資金を投じてきたにもかかわらず、事実上、進んでいない。この7月15日に高木義明文科相が「もんじゅ、開発中止も含めて検討」と発言したという。もんじゅについてはそれでよいかもしれないが、そこで使うために蓄積されてきたプルトニウムが消えてくれるわけではない。原子炉級とはいえ、プルトニウムである。わが国が保有する約200トンは、国際原子力機関の定める有意量の2万5000倍だ。日本が核武装を行いうるとは思わないが、諸外国が好意的に見てくれるわけではない。もんじゅの開発中止─すなわちプルトニウム消費先の喪失─は、直ちに周辺諸国の警戒感を引き起こすことにもなる。プルトニウムを化学反応で消すことはできない。それができるのは核反応だけだ。

プルトニウムを消すトリウム

5月、ワシントンであった第3回「Thorium Energy Alliance Conference」 
写真提供:筆者

 近年、(d)“トリウム”という言葉が注目を浴びるようになってきている。それは、トリウムがこのプルトニウムを消しつつ、電力を生み出す鍵であるためだ。トリウムは、天然の元素で核燃料になる。ウランよりも軽いため、原子炉で燃やしても重いプルトニウムになることはほとんどない。高レベル放射性廃棄物の主因となる長寿命の超ウラン元素の発生量も少ない。ただ、ウランと異なりトリウムだけでは燃えない。そのため着火材が必要だが、それがプルトニウムだ。

※a【プルトニウム】
原子番号といえば「スイヘイリーベ、ボクノフネ…」と思い出しますが、この原子番号で自然のなかにあるもののなかで一番大きなものが、ウランです。ウランは92番。ウランの原子核には92個の陽子があるという意味です。ちなみに、原子核は陽子と、中性子でできています。元素のなかには、陽子の数が同じで中性子の数が異なる同位体というものがあります。つまり、重さが違うことになります。
例えば、ウランには核分裂しやすい235(陽子92、中性子143)とそうではない238(92、146)がありますが、ウラン235は自然界には0・7%ほどしか存在しません。これを濃縮して3~5%にして、ウラン238と一緒に核燃料として、原子炉のなかで使用します。
ウラン235に中性子を当てると、核分裂が起きて中性子が新たに2~3個飛び出します。このときに熱が発せられて、この熱で水を蒸気に変えてタービンを回して発電を行うという具合です。ただ、核分裂によって飛び出したままの中性子ではスピードが速すぎて核分裂を制御しにくいので、減速させる必要があります。それに使われるのが、「軽水(普通の水)」や重水、黒鉛です。減速させずに核分裂させることもできます。高速増殖炉「もんじゅ」などです。原子炉では1個の中性子で核分裂させ、残りの中性子でウラン238を核分裂できるプルトニウム239に変えていきます。発生するすべての中性子でどんどん核分裂をさせることもあります。これが原子爆弾です。原爆ではウラン235をほぼ100%使います。
プルトニウム239はウラン235と同じく核分裂を起こします。ですので、プルサーマルでない普通のウラン燃料を使う軽水炉でも、運転の後期には実は発電の3割程度はプルトニウムの核分裂がエネルギーを生み出しています。
このように、プルトニウムを作り出すことは、天然ウランの大半を占める核分裂をしないウラン238から核分裂をする新たな燃料を生み出すことを意味するのです。
ただ、このようにエネルギー源になるプルトニウムを蓄積することがなぜ、世界から不安視されるかといえば、ウランのように濃縮する必要がなく、プルトニウムのほうが臨界に必要な量(濃縮ウラン25キロ、プルトニウム8キロ)、つまりは原爆にするためにより少ない量で作ることができるからです。
※b【使用済み核燃料】
使用済み核燃料は、燃料として再利用できるウランやプルトニウムと、燃料には使えない核分裂生成物などを含んでいます。後者は放射性廃棄物と言われます。放射能の強さによって、高レベルと低レベルに分けられます。
放射性廃棄物は安定な地層へ埋設処分されます。放射性物質の性質ごとに、環境への漏出を抑制するために、埋められる深さが変ります。低レベル廃棄物のなかでも比較的放射能レベルの高い原子炉の構造物などは「余裕深度処分」という 地下50~100メートルに処分されます。また、高レベル廃棄物については、 「地層処分」 といって、地下300メートルより深い地層中に処分されます。
※c【高速増殖炉】
高速増殖炉というのは、実は読んで字のごとくのことを意味しているのです。高速とは、先ほど、中性子がウラン235や238に当たるスピードを減速するといいましたが、これを減速させないことを意味します。中性子のスピードを減速せずにどうするかといえば、それによって、より多くのプルトニウムを作り出すことが狙いです。
この高速増殖炉では、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使いますが、発電に使用した以上のプルトニウム、約1・2倍を新たに作り出すことができるという話になっています。
ただ、高速増殖炉「もんじゅ」は停止したままですし、もんじゅは、実用化に向けては2番目の「原型炉」といわれるもので、このあと2025年に実証炉、さらには2050年に商業ベースという行程です。道のりは険しいのが実情です。
※d【トリウム】
トリウムは、古くから原子力燃料として知られていました。昭和30年に作られた『原子力基本法』にも、「核燃料物質とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質」とあります。アメリカでは1960年代にトリウムを使うための実証炉まで作られました。
それが、なぜ今現在、トリウムの原子炉が一つもないかといえば、まさに時代のせいと言えます。第二次世界大戦後の冷戦時代、米ソは核兵器の増産に励みました。前述の通りウランはプルトニウムを生み出しますが、トリウムはプルトニウムを生み出さないのです。また、ウランと異なり、トリウムはそれ自身では核分裂性の同位体を持ちません。当時としては、新たなエネルギー源を生み出すウランのほうを選ぶというのは、自然な選択だったのかもしれません。そうするうちに、ウラン型の原子炉がコスト競争力をつけていき、トリウムを使った原子炉はマイナーの道を辿ることになったのです。

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