食の安全 常識・非常識

2011年10月17日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

*前篇はこちら

<牛肉>~汚染稲わらを与えていた農家は1割

 前回、牛乳について「チェルノブイリで牛乳が汚染されたのだから、日本も危ない」とするのは間違っていると書きました。日本の酪農のやり方、与える飼料は、旧ソ連とはまったく違うからです。

 しかし、そう述べると必ず、「でも、汚染されていた稲わらが牛に食べさせられていたではないか。飼料の管理なんて行われていないんじゃないか」という反論が返ってきます。それについては、福島県の調査結果を検討してみましょう。

福島県の緊急立ち入り調査結果
(福島県・農林水産部畜産課まとめより作成)
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 福島県は、7月11日から8月6日にかけて、牛を飼育している全農家を調査しています。

 肉用牛繁殖農家は、母牛を飼い種付けをして子牛を産ませ、その子牛を売る農家です。肥育農家は、子牛を購入し大きく育てて、出荷します。これが牛肉になります。酪農家は、牛乳生産をする農家です。

 合計では、約4%の農家が汚染稲わらを給与した可能性があります。ただし、酪農では通常、稲わらよりももっと栄養価の高い牧草が与えられるため、汚染された稲わらを与えた(可能性のある)農家は1戸でした。

 一方、稲わらは品質のよい霜降り肉作りに必要ですので、肉用牛肥育農家が与えた割合は多く、約1割に上っています。そのため、暫定規制値を超える牛肉も多数出たのです。

 それでは、現在の牛肉はどうでしょうか?

 懸念のある牛は出荷されておらず、牛肉も出回っていません。また、騒ぎになった7月以降、汚染された可能性のある稲わらを飼料として与えた農家はいないと思われます。国費が投じられて対策が講じられ、牛肉の買い上げや汚染されていない稲わらの手当てなども手厚く行われたからです。

 飼料を切り替えれば、牛の体の中の放射性セシウムの排出が進み、長くても約60日後には牛の体の中の放射性セシウムの量は半分になる、とみられています。問題発覚から3カ月たった今、牛肉の放射性セシウム汚染の懸念はもうないとみて良いでしょう。実際に、各県で盛んに牛肉の検査が行われていますが、放射性物質が検出されないケースがほとんどです。多くの県や一部のスーパーマーケットなどが全頭検査を行っていますが、一部を調べるモニタリング検査に戻して検査数を減らし、検査のキャパシティをほかの食品に振り向けるべきです。

<キノコ>~野生は高濃度の放射性セシウムを検出

 今、非常に心配されているのはキノコです。厚労省は9月に入ってから、福島県の一部地域で採種された野生キノコについて、摂取制限や出荷制限を設定しました。山林にも放射性物質は降下し土壌や樹木、降り積もった落ち葉などに付着しています。キノコは、それらから養分を吸収して一気に生長するので、汚染されやすいとみられます。

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