食の安全 常識・非常識

2011年10月12日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

 コメの予備調査で暫定規制値ちょうどの放射性セシウムが検出されて、食品に対する汚染への不安がさらに高まっているようです。しかし、放射能には詳しくとも、生産現場の状況に関する知識に乏しい人がばらまく “恐怖情報”が、世間の不安を煽り風評被害を産んでいるようにも見えます。放射線の影響をあなどってはなりませんが、事実でないことに基づいて怖がるのは意味がありません。主要食品の現状と今後を2回にわたって考えます。

<コメ>—規制値ちょうどの二本松市のコメ
田んぼが林に囲まれていた

 福島県によれば、コメの予備調査で二本松市の玄米から放射性セシウム134が220Bq/kg、放射性セシウム137が280Bq/kg、検出されました。穀類の暫定規制値は500Bq/kgで、この数値ちょうどの結果です。

 土壌にある放射性セシウムはかなりの割合が土壌にしっかりと吸着して離れにくく、イネの根に吸われて玄米に移行する割合(移行係数)は、40年にわたる調査結果から1割(0.1)を大きく下回ると見られています。そのため、農水省はこの春、5000Bq/kgを超える土壌にはイネを作付けしないように指示しました。こうすれば、1割が移行したとしても玄米は必ず、暫定規制値である500Bq/kgを下回るはずだからです。

 ところが、二本松市で500Bqという測定値が出てしまったのです。しかも土壌の値は新聞報道によれば3000Bq/kgとのこと。移行係数に基づく推定値よりもかなり高めの検査結果です。

 原因ははっきりしません。土壌中のセシウムは、粘土鉱物の種類や量、有機物の量などによって吸着の度合いがかなり異なるため、セシウムをしっかりとつかまえる鉱物が少なければセシウムが植物に吸われやすいとみられます。したがって、この調査地点の土壌の性質を詳しく調べる必要があるでしょう。また、水も重要だと思います。どこから流れて来た水が使われたのか、大量に降下した放射性セシウムが付着した落ち葉などで汚染された水が、この田んぼに来ていなかったかなど、調べなければなりません。この田んぼは、周囲を林に囲まれており、一般的な平地の田んぼとはかなり異なります。今、綿密な調査が行われています。

 消費者にとって事態把握のポイントはまず、これが予備調査の結果であること。予備調査は、刈り入れ前の田の一部を刈り、玄米を測定するもの。そのため、問題の地点のコメも周辺地域のコメもまだ出荷はされていません。県は、この地域を重点調査区域に変更し、調査点数を増やして「本調査」を行い、出荷するかどうか判断します。

コメの調査結果(農水省まとめより作成)
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 また、この調査地点がかなり異例の事例であることも重要です。予備調査では、県内449地点を調査し419地点は暫定規制値を大きく下回るか、検出限界以下でした。二本松市内の玄米についてもこれまで、24地点で検査され、今回の1地点を除きどれも問題ありません。福島県では、予備調査を終えて問題がなかった地域は本調査が行われており、周辺の他県でも同様ですが、特に高い数値は出ていません。ほかの結果に比べ、二本松市内の調査地点は際立って高く特異な数値なのです。なにか、通常の田んぼではあり得ないことが起きた、とみるのが妥当です。

被ばく線量は低く、白米にすればさらに下がる

 この500Bq/kgの玄米を1kg食べた時の被ばく線量は、0.008mSv程度。前回書いた通り、100mSv程度を下回る被ばくではリスクは顕在化しないことや、日本人は食品中に含まれる自然の放射性物質から年間0.41mSv程度を被ばくしていることを考えると、この数字は極めて小さいということも知ってください。

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