家電の航路

2011年11月9日

»著者プロフィール
閉じる

前田 悟 (まえだ・さとる)

金沢工業大学客員教授

(株)SOW他複数企業特別顧問。1951年岡山県生まれ。ソニーで、世界初の無線TVエアボード、ロケーションフリーTVなどを開発。07年にケンウッドに移籍し、2008年JVC KENWOOD Holdings㈱執行役員常務に就任、2011年6月退任まで技術戦略、新規商品開発を担当する。2010年7月から、金沢工業大学客員教授、現在は複数企業の特別顧問も行っている。

 「新入社員にやりたいことを聞くと、プロダクトプランニング、という意見を挙げる人が大変多いのですが、具体的に尋ねると、今日現在必要とするものばかりです。残念ながらそれはプロダクトプランナーとは言えません。3年先、5年先、ひいては8年先まで見越すようなプランニングが必要なのです。我々の頃はアナログからデジタルに変えるという大きな波を起こすことを考えていました。世の中の流れを変えることくらいをしないとプロダクトプランナーとは言えません」

 4月23日に亡くなられた元ソニー最高経営責任者の大賀典雄相談役が個人HP「燦」で書かれた話だ(2006年2月20日)。ウェスチングハウスが東芝に買収されたことに衝撃を受けて、ビジネスが先細りすると、ソニーも同じ道を辿ると警鐘を鳴らされた。だからこそ、将来を見通したプロダクトプランナーを育てなければならないと話されているのだ。この続きとして、

 「話は変わりますが、ニューヨークで東京の放送を見ましょう、という Location Free TV が経産省主催の『ネットKADEN2005大賞』を受賞したことは本当に嬉しいことです。あれは素晴らしい改革だったと思います。昨年末ニューヨークに行く時に1台持っていって見ましたが、かつて出張先のホテルで見られる日本のテレビ番組といえばNHKだけだったにもかかわらず、日本の各局で放送中のテレビ番組をリアルタイムで見ることができるということは本当に素晴らしいことです」と話されている。

 私がソニーで開発した最後の商品であるロケーションフリーTV(ロケフリ)に触れていただいた。大賀さんは、このロケフリ(インターネットを通して、自宅のTVを世界中どこでも見ることができる)の最大の理解者で応援団長でもあった。

 ただ、社内的には上手くいけば儲けもの程度で、最近のソニーの商品と同様に開始時から利益を要求され、常に追い込まれた状況であった。だからこそ、大賀さんが「もっと大事に育てろ」との意味をこめて触れて下さったのだと思う。結局、ロケフリからは撤退したが、後から同様の商品を出した米国のベンチャー企業が、設立4年で500億円で売却される会社に育ったのは皮肉な話だ。

大賀さんと連名で出した最後の特許

 大賀さんは多彩な能力の持ち主であるが、中でも商品に対する目は類稀なる力を持たれ、その本質を見る目は晩年まで衰えることはなかった。会社の大小に関わらず、トップ自ら商品を常に観察し、実際に使い、本質を見抜く力があるということが大事である。ただ、今こうした洞察力を持った経営者がどのくらいいるのだろうか。

 大賀さんから「ロケフリにオートディレイはできないか? 日本の夕方6時の番組は、NYでも夕方6時に見たい」と提案をいただいた。これに対して私が「できます」と答えると、「特許を出そう。あなたの基本特許とこの特許があれば鬼に金棒だ」と言われ、提出した。これが私のソニーでの最後の特許となったが、俗にある単に上司を名前だけ連名で入れるといった特許ではなく、正真正銘大賀さんが出されたアイデアであった。
 

◆WEDGE2011年6月号より


 

 


 

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る