WEDGE REPORT

2019年3月15日

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児玉 博 (こだま・ひろし)

ジャーナリスト

1959年大分県生まれ。早稲田大学卒業。フリーランスジャーナリストとして、大手総合誌、ビジネス誌で活躍。著書に『日本株式会社の顧問弁護士 村瀬二郎の「二つの祖国」(文春新書)、近著に『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)など。

 2018年12月23日、この日も、哨戒機P−3Cはソマリア沖アデン湾に向かってジブチの拠点を飛び立っていった。

 同海域の海賊から航行する船舶を護衛する目的で自衛隊の海外派遣が行われるようになって10年。自衛隊からの派遣隊は33次を数えている。

P-3C哨戒機は月に約20日間、日中にアデン湾上空から海賊の警戒監視にあたる。1回のフライトはおよそ8時間

 海上自衛隊八戸航空基地所属のP−3Cは季節風の影響で白波が立つアデン湾を東に向かった。コックピット越しに見えるアデン湾は季節風が巻き上げる砂漠の微細な砂で霞んで見える。夏場はゆうに30キロ先まで見通せるが、この季節は1マイル(約1・6キロ)、2マイルしか視界が確保できない日もある。

 船舶への襲撃、乗っ取り、その過程では銃撃戦さえあった海賊行為。自衛隊が対処行動に参加し始めた頃、2009年からの3年間などは毎年200件以上の事案が発生していた。前述したように、銃撃、被弾する船舶も少なくなかった。自衛隊を始めとする多国籍軍(アメリカ、フランス、スペイン、イタリア、ドイツなど)と共同の対処行動による抑止は確実に効果をあげ、一昨年、昨年と発生件数は9件、2件と低い水準で推移している。

自衛隊による海賊対処 (出所)『防衛白書』を基にウェッジ作成 写真を拡大

 とはいえ、今もってアデン湾を挟むイエメンはサウジアラビア、イランの代理戦争の様相を呈している。ジブチの隣国、ソマリアは内戰の影響で国内が4分割に統治された状況。IS(イスラム国)が深く浸透している地域もある。ジブチに5000人規模で展開する米軍が最も神経を尖(とが)らせているのはソマリア。

 こうした不安定要素を抱えるのがアデン湾なのだ。この不安定な海域を年間1万8000隻以上の船舶が航行、そのうち日本の関係する船舶はおよそ1割にものぼる。日本のエネルギー安全保障を担保する意味でも海域の安全は日本の生命線でもあるのだ。

五感で〝見えない敵〟を探す

 「10時の方向にタンカー」

 ジャイロ付き双眼鏡を覗いていたオーディナンスと呼ばれる機上武器員、高橋倫世2等海曹の声がコックピットに響く。

レーダーで得た情報を基に双眼鏡で船舶を探す高橋倫世2等海曹。梯子や漁具の有無などを見極め、海賊船でないことを1隻ずつ確認する

 ディスプレイ上に光る緑色の点を見つめていた〝TACO(Tactical Coordinator)〟と呼ばれる戦術航空士、水口慎太郎1等海尉がコックピットにやって来る。水口の胸には対潜水艦戦などの専門の飛行課程で叩き込まれたものだけに許される〝金色のウイングマーク〟の徽章が輝く。戦術的な判断などを下す〝TACO〟の水口は中学生の時に米国同時多発テロをテレビで目撃。自分は何かしなければと思い立ち、少年工科学校(横須賀市)へ入学。その後、海自航空学生を経て自衛隊員への道を歩み始めた。熱血漢でもある彼は、クルー12人のムードメーカーでもある。

 機長、平田慎3等海佐は機を左旋回させ、タンカーに近づく。オーディナンス、高橋の両手で構えた400ミリ望遠レンズ付きカメラがタンカーを狙う。撮影された映像はすぐにコンピュータ処理され、過去撮影してきた膨大な船舶の画像と照合され、その身元の確認が行われる。撮影された過去の船舶、もちろん海賊の乗った船舶のデータもすべて残され、随時照合されていく。

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