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2019年4月1日

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土居丈朗 (どい・たけろう)

慶應義塾大学経済学部教授

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手などを経て現職。『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社)で2007年度日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞。税制調査会委員等を兼務。
 

 2019年は公的年金の財政検証が5年ぶりに行われる。わが国の公的年金がいわゆる「100年安心」かどうかを検証するのである。

(PETER DAZELEY/GETTYIMAGES)

 夏には参議院選挙が予定されている。加えて、安倍晋三内閣は、第一次政権期に年金記録問題に翻弄(ほんろう)された経験から、年金が選挙の争点となることを忌避しているともいわれる。すると、今年の財政検証は、参議院選挙後になるのか。

 そうすることは、恐らく困難と思われる。過去2回の財政検証は、2009年2月と14年6月には結果を公表した。選挙後に先送りすれば、検証結果を選挙前に示せないほど政権にとって都合が悪いのか、と疑心暗鬼になりかねないからだ。

 では選挙前に出るであろう年金の財政検証では、何が焦点になるか。それは、将来にわたって安定して所得代替率が50%を維持できるような給付が出せて、かつ100年後でも年金積立金が枯渇しないかどうかを検証することである。

 ここでいう所得代替率とは、受給開始時の年金額がその時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示すもので、夫が正社員として40年間平均賃金で働き、妻が無収入の専業主婦である夫婦(モデル世帯)が2人で受け取る年金額を前提としている。受け取る年金額は、①夫の基礎年金、②妻の基礎年金、③夫の厚生年金からなる。

 夫婦で40年間加入しているから、夫婦はそれぞれ満額の基礎年金(現在で月に約6万5000円)がもらえ、平均賃金で働いて納めた年金保険料に見合う給付として、平均的な厚生年金給付がもらえる。これら3つの年金額の合計として、所得代替率が50%を割らないように給付を出せるかが検証される。

時代錯誤の検証で漏れる
非正規労働者の老後保障

 しかし、終身雇用のサラリーマンの夫と専業主婦の妻を「モデル世帯」として検証することで、多くの世帯の老後の安心を保障したことになるのだろうか。今では、非正規社員が4割に達し、多くは厚生年金に加入していない。また、単身高齢世帯が増加しており、昨年公表された国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」では、40年には65歳以上で単身世帯が40%に達するという。モデル世帯は、こうした現状を反映できていない。

 モデル世帯の検証結果だけをみていると、今後の超高齢社会の「不都合な真実」から目を背けてしまうことになる。懸念となるのが、公的年金制度のマクロ経済スライドとの関係だ。04年度の導入後、15年度に一度しか発動されなかった(19年度に発動予定)ため、今後はマクロ経済スライドがより厳しく発動されるようになると予想され、特に基礎年金部分に厳しく適用される可能性が高い。

 このことが意味するところを説明しよう。そもそも、マクロ経済スライドとは、年金の給付と負担をめぐる世代間格差を是正するために導入された。今の若年世代やまだ見ぬ将来世代の保険料の負担増を和らげるため、17年度以降、年金保険料(率)の引き上げをやめたが、そうすると、保険料を払う若年世代の人口に応じてしか年金保険料収入は入らない。そこで、若年世代の人口の減少に応じて年金給付を減らすというのが、マクロ経済スライドの仕組みである。

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