2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2011年11月24日

 法案を立案する官僚は、事前審査を通過させるために、政治家に「御説明」をし、政治家の間を飛び回って細かな根回しをするようになった。一方、政治家は、派閥中心、当選回数重視の人事のなかで、得意分野をつくって権力を行使する「族議員」に変化していった。政府与党二元体制は、「政治的官僚」と「行政的政治家」という倒錯した役割分担を生んだ。政治家の興味は、行政運営や個別の政策実施に集中し、大規模な制度の改変や、より高次の国家的利益のための政策間調整といった、大がかりな政治への関心が失われた。

 そういう自民党政治からの大胆な路線転換を図ろうとした民主党が、政府与党一元化を掲げたのは正しかった。政権をとるまでの民主党は自民党よりも優れた政治の仕組みを目指していた。しかし、いざ与党になると、鳩山政権は政調廃止、党の税制調査会(党税調)廃止、事務次官会議廃止と、自民党時代の仕組みを壊すばかりで、代替機能をつくらず、事態を混乱させていった。

 各省庁の政務三役(大臣、副大臣、政務官)になれなかった、300人規模の議員は意見を表明する場がないと不満を募らせた。結局、小沢幹事長が力でおさえ込んで、高速道路問題などで政府に要望を行うという、当初想定されていないプロセスに変化していった。

 その後を継いだ菅政権は、政調を復活させ、議員の多くが政策立案に関与できる体制を構築しようとした。玄葉光一郎政調会長(当時)に閣僚を兼務させ、「一元化」の旗印を維持した。政調は事前承認の権限を持たず、政府に対する提言組織と位置づけられたが、そうした状況では、建設的な政策論議はなされなかった。

問われる大臣と政調会長の役割

 以上の混乱の経緯を考えれば、党により重心を移した野田総理大臣の判断は致し方ないだろう。とはいえ、この体制変更がすなわち自民党時代への回帰を意味するかといえば疑問である。民主党は経験が浅く、族議員が出てくるにはまだ時間がかかると思われるからだ。

 民主党の問題は、党側への重心移行より、プロセスの実質の改善を怠っていることにある。民主党にとってもっとも重要なことは、党所属議員全員が政府の政策決定に参加意欲を持ち、総理大臣のために一つにまとまることだ。そのためには、大臣以下政務三役が党内の意見調整プロセスにもっとコミットし、最終的責任を負わなければならない。

 政権交代以来、政務三役は官僚のような仕事をすることに集中してしまっている。官僚の代わりに省内を運営することが「政治主導」だと勘違いし、官僚を排除することに熱中する大臣もいた。大臣の大事な仕事は、官僚の真似事ではなく、与党の説得である。党内の意見調整を行うはずの鳩山政権における各省政策会議がめったに開かれず、菅政権における政調部門会議が機能しなかったのは、政務三役の責任が大きい。

 政策実行のためには、国会のあり方や党との関係を変えていく改革が必要だったにもかかわらず、民主党は「政治主導確立法案」の提出を半年以上も遅らせ、結局成立を見送った。そして、鳩山内閣の与党議員たちに「大臣が勝手に作った法律」という意識があった。

 野田政権の成否の鍵を握るのは、前原誠司政調会長だろう。政調会長が黒子になって、総理大臣に権力を集中すべく、大臣、副大臣らをうまく使って与党議員をまとめられるかがポイントだ。目立つ発言を好む前原政調会長だけに正念場である。議論の場ができれば、議員の言いたい放題が始まる。また、国会日程などを調整する幹事長部局との関係を円滑に回せるかも注目点だ。

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