食の安全 常識・非常識

2019年4月18日

»著者プロフィール
著者
閉じる

松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

(ShutterOK/iStock/Getty Images Plus)

 「超加工食品ってそんなに悪いのですか?」 そう尋ねられる機会が増えました。週刊誌やウェブメディアでは「がんリスクを10%も上げる」「死亡率も上昇」「食べてはいけない」と報じられています。標的になっているのはインスタント麺やスナック菓子、炭酸飲料などです。

 “超加工食品”が悪いという記事は、大規模なフランス人調査の結果をまとめた学術論文に基づいたもので、科学的根拠、すなわちエビデンスがあるように見えます。日経メディカルや毎日新聞医療メディカルなど、医学系メディアも追随して報道し、医師もコラムなどで紹介しています。

 ところがこの論文、いろいろおかしな点があり、海外ではほかの科学者から論文に対して批判が上がっています。そこで、食品のリスクの問題に詳しい国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子さんに、論文の内容と日本の食品の課題についてじっくり話を聞きました。

 先に結論を書きましょう。“超加工食品”説を鵜呑みにしてはいけない。そのからくりを解説します。

一見「エビデンスあり」なのだが……

超加工食品がリスクを上げるという結果を発表した2つの論文

松永:論文は、昨年2月と今年2月、計2本発表されており、フランスで10万人を超える成人を対象に行われた調査が基になっています。2009年に食事調査を行い、その後、2017年まで追跡調査をして、超加工食品(ultra-processed food)を多く食べていた人たちはがんリスクが12%上がっていたと解析したのが昨年2月の論文。今年2月の論文では、45歳以上の参加者のデータを解析し、超加工食品を多く食べていた人たちでは死亡リスクも14%上がっていた、と報告しました。海外で大々的に報道され、日本でもこのところ、紹介記事が目立ちます。

畝山:論文には次のように、相当に大きな問題がいくつもあります。

1.超加工食品の分類が科学的ではなく恣意的
2.調査がインターネットで参加者自体にバイアスがかかっている可能性が大きい
3.食事が自己申告
4.超加工食品の摂取を重量で比較している
5.参加者が真実を申告しているかどうか確認していない
6.教育レベルや経済力などほかの要因をどの程度調整しているかわからない

 調査や研究の設計が、かなりおかしいと思います。

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長・畝山智香子さん(撮影:編集部)

松永:普通の人はどうしても、超加工食品だとリスクが上がる、という結果だけを聞いて、「加工度の高い食品はやっぱりダメなんだ。添加物のせいだろう」などと思います。でも、調査や研究が科学的でなければ、結果も信用するに値しない。だから、まずは調査研究方法を吟味しなさい、ということですね。

同じレシピで工場製は×、手作りは○?

畝山:まず、超加工食品の定義が問題です。論文で、超加工食品として分類されているのは、大量生産され包装されたパン/甘かったり塩味をつけられた包装スナック/工業的に製造された菓子やデザート/甘い炭酸飲料やドリンク類/ミートボールやチキン・フィッシュのナゲット、他の肉加工品など、塩以外の保存効果を持つ物質(たとえば亜硝酸塩など)が添加されたもの/インスタント麺やスープ/冷凍か常温保存できる調理済み食品/砂糖や油、台所で通常用いられない水素添加油脂や遺伝子組換えスターチ、たんぱく質などで作られた食品などです。

 そして、これらを食べる量により、調査参加者を4グループに分け、その後のがんのリスクや死亡リスクを比較しています。論文を見ると、たしかに食べる量に応じてリスクが上がっています。

松永:普通の人が体に悪そう、となんとなく思っている食品がずらりと並んでいる。だから、悪いと聞かされると腑に落ちる。

関連記事

新着記事

»もっと見る