2024年12月1日(日)

経済の常識 VS 政策の非常識

2011年12月6日

 将来の社会保障の財源を確保するための消費税増税を含む「税と社会保障の一体改革」が必要で、年内にも消費税の増税時期を決める「大綱」を策定するという議論が盛り上がっていたが、結局、「大綱」は策定されず、先送りになるらしい(12月2日各紙)。

 多くの人は、これを将来の高齢社会に対して無責任な態度だと議論しているようだが、私は、先送りになって良かったと考えている。というのは、現在の政府も反対している与野党も、消費税増税をすれば、将来の高齢者の福祉は確保されると考えているらしいからだ。

高齢者福祉の水準を
将来も保てるはずがない

 常識的な範囲の増税で、これまで通りの高齢者福祉を続けて行くことはできない。なぜなら、超高齢化に向かう日本では、高齢者が多くなりすぎて、高齢者が少ない時には可能であった高いレベルの高齢者福祉を続けるためには、とんでもない増税が必要になるからだ。「税と社会保障の一体改革」の議論は、まず、このことを議論しなければならないが、この種の議論を聞いたことがない。

 現在の「税と社会保障の一体改革」の議論は、増税をすればこれまでの福祉を続けて行くことができる、だから増税だという筋道になっている。しかし、超高齢社会では、そうはならないことをまず認識しなければならない。この認識なしに、現在、増税されれば、その増税分は現在の高齢者に分配され、将来の高齢者には分配されない。そんなことをするぐらいなら、何もしない方がマシである。

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「社会保障統計年報」「日本の将来推計人口-平成18年12月推計-(中位推計値)」、総務省統計局「人口推計」、内閣府「国民経済計算」 (注)2009年、10年の社会保障給付費は、厚労省福祉関係予算伸び率で推計。
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 これまでの高齢者が得ていた福祉を続けることはできないことを簡単な数字で説明しよう。図には、名目GDP、社会保障給付費(2009年、10年の値は、一般会計予算の厚生労働省福祉関係予算伸び率から推計)、社会保障給付費と名目GDPの比率とそれらの将来推計値を示してある。社会保障給付費と名目GDPの比率を見ると、1970年には4.6%に過ぎなかったものが、2010年には24.6%になっている。この比率は将来どうなるだろうか。

 将来予測のために次のように仮定する。高齢者一人当たりの社会保障給付費は一定で、高齢者(65歳以上人口)に応じて増えていく。GDPは、生産年齢人口(15~64歳人口)に応じて増えて行く(生産年齢人口が減少するので、実際には減少していく)。

 社会保障給付の増加についてはあまり反論がないと思うが(医療の進歩によってもっと増えるという批判があるかもしれない)、GDPには反論があるだろう。労働生産性が上昇すれば、生産年齢の増加以上に、GDPは増えると批判する人が多いだろう。

 しかし、財政や福祉のプロを自任する人の中には、GDPが成長しても財政は楽にならないと主張する人が多い。なぜなら、成長すれば所得が増え、所得が増えれば年金も医療・介護に携わる人の人件費も比例的に増やしていかなければならないからだというのである。

次ページ 2055年までの将来を見据えて


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