日本を味わう!駅弁風土記

2012年1月16日

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福岡健一 (ふくおか・けんいち)

ウェブサイト「駅弁資料館」館長

日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」館長。2001年からこれを個人で運営、無予約非取材を原則に全国各地をめぐり、年間約400個の駅弁を食べる。「時刻表博士」でもある。

海の見えない現在の品川駅で、鉄道開業時の海を見渡せた頃の品川駅に思いを馳せながら食す一面貝づくしの海鮮弁当。数種類の貝の風味と食感が、ビジネスマンや旅行客の食欲をかき立てる。

 1872(明治5)年の10月14日、日本で初めての鉄道が開業した。新橋駅と横浜駅を約1時間で結ぶ陸蒸気(おかじょうき)の登場は、文明開化の一コマとして歴史の教科書にも当時の錦絵が載る。これにちなみ、10月14日は「鉄道の日」となった。補足を付けると、10月14日は太陽暦に換算された日付であり、当時の太陰暦では9月12日であった。荒天のため開業日が3日遅れた、とまで言えれば合格である。

 さらに、この日が公式な開業日ではあるものの、実はその4カ月前から営業運転が実施されていた。旧暦の5月7日、新暦換算で6月12日には、品川駅と横浜駅のみが先に開業し、一日2往復の汽車が両駅間を35分で結び始めているのである。この事実は今の世では「仮開業」という表現で紹介されるが、運賃を徴収して汽車が旅客を運送したのだから、仮であろうが公式だろうが、この時に鉄道が開業したと言える。現在の法令では、間違いなくそう扱われる。

 ここまでで何が言いたいかというと、つまり品川駅は日本最古の駅なのである。当時の品川駅は御殿山が東京湾に落ち込む斜面を切り開いた、海の脇の駅であった。ここから新橋駅までの線路も、用地買収の都合で海面を埋め立てて敷いたほど、鉄道は海と共にあった。現在の品川駅は埋め立てで海が遠くなり、もはや潮の香りさえ漂ってこない。しかしこの品川駅で、21世紀にもなって、貝の駅弁が新たに誕生しているのだから面白い。

新幹線品川駅開業時に生まれた貝づくしの駅弁

「品川名物貝づくし」は、2003(平成15)年10月1日の東海道新幹線品川駅開業に合わせて、その新しい品川駅で販売が開始された駅弁である。茶飯の上を、貝のサイズの大きい順に、ハマグリに似たアサジ貝の煮物、アサリの浅炊き、シジミの山椒煮、イタヤガイの小柱で覆い尽くしてしまっている。お弁当なので玉子焼や煮物類や青菜といった付合せも添えているが、駅弁の名前どおりメインは間違いなく貝であり、その名に恥じない貝づくしの駅弁である。

品川名物貝づくし ジェイアール東海パッセンジャーズ 900円

様々な貝やその煮汁の味が混ざり合う駅弁など、他にはない。臭いも味も刺激の強い紅生姜が貝と一緒に詰められている点だけは残念だが、甘みや辛みが強くない淡い味付けにより、何の貝や何の味付けというわけではない、貝づくしの風味と食感を食べ始めから食べ終わりまで存分に味わうことができる。

 貝の駅弁は、作るのが難しいらしい。作り置いて常温や冷蔵で売る弁当であるから、冷めた状態で味を出す必要がある。貝は下ごしらえをうまくしないと生臭くなり、工夫して煮たり焼いたりしないと硬くなる。「品川名物貝づくし」に入る各種の貝は、食す際、普通に香り、普通に柔らかい。駅弁売店で買って食べる旅行者の多くは、想像に及ばない工夫に、玄人筋からは感嘆の声が聞かれるという。

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