世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月23日

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 米国は、昨年5月8日に一方的にイラン核合意(JCPOA)を離脱して以来、イランに対する圧力を強め、これに反発するイランとの間で緊張が急速に高まってきた。最近の米国によるイランに対する「最大限の圧力」キャンペーンを時系列的に追ってみると、下記のように4つの厳しい措置が矢継ぎ早に執られていることが分かる。

(MrAdvertising/eakgaraj/iStock

(1)4月8日、ポンペオ国務長官が革命防衛隊をテロ組織に指定すると発表。

(2)4月22日、ポンペオ国務長官がイラン石油の輸入について8ヶ国・地域に認めていた米国の制裁からの免除を5月2日以降撤廃すると発表。

(3)5月3日、国務省がイランの核活動に対する新たな制限措置を発表。

(4)5月5日、ボルトン安全保障担当補佐官が「米国あるいは同盟国の利益に対する如何なる攻撃も容赦仮借ない力に見舞われるとの明確かつ間違いのないメッセージをイラン政権に送るため」として空母エイブラハム・リンカーンの機動部隊と爆撃機部隊をペルシャ湾地域に派遣するとの声明を発表。

 イラン側は、当初JCPOAの米国を除く当事国(英仏独露中)との間で、JCPOAを維持する姿勢を見せてきた。EUもJCPOAの擁護に努めてきた。しかし、米国の対イラン経済制裁復活により、米国による制裁を恐れて欧州の銀行や企業はイランとのビジネスに逡巡したこともあり、イラン経済は悪化している。JCPOAでイランは経済的利益を得られるはずであったから、イランとしてはJCPOAを遵守する動機が著しく減退する結果となっている。

 米国の「最大限の圧力」に対し、イランは当然、反発を強めている。4月下旬には、イランの最高指導者ハメネイ師は、革命防衛隊の司令官をジャファリから、さらに強硬な反米保守派のサラミ副司令官に交代させている。イラン国内の強硬派の発言力が高まっていると見られる。

 そして、5月8日にイランはついに、JCPOAの義務の履行の一部一時停止に踏み切った。即ち、イランは、過剰な重水と濃縮ウランの海外への移転を60日間止めると述べた。イランのロウハニ大統領は、欧州関係国や中露がイランの石油輸出と金融取引を保全することが出来ればこの決定は取り消すとの留保をつけている。イランがJCPOAへの「死亡宣告」をしたとまでは言えないが、JCPOAを救う道は全く見えない。トランプ米大統領は、対抗措置として、同日、鉄鋼、アルミ、銅をめぐるイランとの取引を制裁対象とする大統領令に署名した。これも「最大限の圧力」キャンペーンの一環と見てよい。

 イランは、米国が5月3日に発表した制限措置にかかわらず、濃縮を続けるとしている。イランは、従来、過剰な低濃縮ウランをロシアに移転して来たが、これを止めれば、イランは核合意に定められる量を超える低濃縮ウランを持つことになり、結局JCPOA違反の事態が生ずるのであろう。米国は、この移転を制裁の対象とすることにより妨害することを意図しているようであり、JCPOAの破壊に乗り出したということかと思われる。

 米国の隠された狙いは、一連の強硬策を通ずるイランのレジーム・チェンジであろうと思われる。しかし、イランのレジーム・チェンジは達成可能な目標とは思われない。最近成功した例はないのではないか。その結果として残るのは、状況の不安定化である。

 トランプの対イラン政策は、不安定化、混乱、対立が自己目的化しているようにさえ見える。こうした中でイランをめぐって起こり得るシナリオとしては、偶発的衝突の可能性が懸念される。イランやイランと同盟関係にある民兵が、シリア等中東地域に展開しているアメリカ軍への攻撃をする可能性があり、ボルトンは、そういう情報を得たため空母エイブラハム・リンカーンの機動部隊他をペルシャ湾に派遣することにしたという。イラン側としては、石油輸出が封じられることになれば、イランがホルムズ海峡の封鎖の挙に出ることもあり得よう。原油および天然ガスの3分の1がこの海峡を通過する。イランには高速攻撃ボート、潜水艦、対艦ミサイル、機雷などがあり、タンカーの通過を遮断する能力はあると見られる。

 仮に米国とイランとの間で武力衝突が起きるようなことがあれば中東は大混乱に陥る。確かに、イランが中東全域で民兵を支援していることや弾道ミサイルを開発していることに対するトランプの懸念は正当なものではあるが、米イラン衝突の責任は、トランプ政権がその多くを負わねばなるまい。

  
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